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YGLPCメールマガジン第42号(2016年2月29日発行)

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         弁護士法人淀屋橋・山上合同

 

        ★ YGLPCメールマガジン第42号 ★

 

   〜労働法最前線

   −賃金や退職金に関する不利益変更と同意取得のプロセスについて−

                           その他1記事〜

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             今号の目次

           

1.労働法最前線

  〜賃金や退職金に関する不利益変更と同意取得のプロセスについて〜

 

2.食品表示法に基づく責任

 

過去のバックナンバー

 https://www.yglpc.com/wp/mailmag/index.html

 

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【労働法最前線〜賃金や退職金に関する不利益変更と同意取得のプロセスについて〜】

 

 労働条件を変更するにあたり,労働者の個別の同意を取得するというのは,一般的に

なされる手法ですが,この同意の取得に関し,注目すべき判断がなされましたので,ご

紹介します。

 今回ご紹介するのは,退職金の支給基準の不利益変更に対する同意の効力が争われた

山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決)です。本事件において,退

職金の支給基準を不利益に変更することについて,上告人(労働者)は書面による同意

をしていました。原審である東京高裁は,書面による同意がなされていることを理由に,

退職金の支給基準の変更を有効と判断しました。

 これに対し,最高裁は,「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更

に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無

だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により

当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は

説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認める

に足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべき」で

あると判断しました。この判断を前提に,原判決では具体的な不利益の内容や程度につい

て情報提供や説明がなされていたのか否かについての判断がなされていないとして,原判

決を破棄し,東京高裁に差し戻しました。このような最高裁の判決からすれば,賃金や退

職金の不利益変更については,書面による同意等の「変更を受け入れる旨の労働者の行為」

の存在だけでは不十分であり,「同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認め

られるに足りる合理的な理由」が客観的に存在するか否かという観点からも判断する必要

があることになります。

 上記最高裁の判決は,賃金や退職金の不利益変更について言及するものですので,直ち

に他の労働条件の変更にまで影響するわけではありませんが,賃金や退職金以外でも重要

な労働条件の変更については,同様の判断がなされる可能性は否定できません。また,少

なくとも,個別の同意により賃金や退職金を不利益に変更する場合には,単に同意を取得

するだけでは不十分であり,不利益の程度や説明の有無等の同意取得のプロセスについて

も気を配る必要があるでしょう。もとより,同意取得に至るプロセスは重要ですが,最高

裁が正面から考慮要素と認めたことに重要な意義があると考えております。今後の実務に

大きな影響を与えると考えられますので,ご紹介する次第です。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 白 石 浩 亮

TEL:  06−6202−3324

E-mail: k-shiraishi@yglpc.com

 

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【食品表示法に基づく責任】

1.食品表示法とは

 食品表示法とは,食品衛生法,JAS法及び健康増進法の食品の表示に関する規定を統

合した,食品の表示に関する包括的かつ一元的な制度を定める法律です。食品表示に関す

るルールは,内閣総理大臣が定める販売の用に供する食品に関する表示の基準(「食品表

示基準」)に定められており,「食品関連事業者等」は,食品表示基準に従った表示がされ

ていない食品の販売が禁じられております(食品表示法第5条)。

 

2.食品表示基準の適用範囲

 食品の製造・加工・輸入を業とする者(当該食品の販売をしない者を除きます。)又は

食品の販売を業とする者(「食品関連事業者」といいます。)や,食品関連事業者以外の

者で食品の販売をする者(「食品関連事業者」と併せて「食品関連事業者等」といいます。)

が,加工食品,生鮮食品または添加物を販売する場合に,食品表示基準の適用があります。

この点は,店舗による販売であるか,ECサイトによる販売であるかは問いません。

 

3.食品表示基準違反に基づく措置

 食品関連事業者等が,食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売を行った場

合は,行政による指導,指示,命令,公表や,罰則の措置があります。そのため,販売者

が,実際に食品表示を行っておらず,食品表示に全く関与していない場合であっても,販

売した食品の表示が食品表示基準に違反しているときは,当該販売者も,上記罰則等の措

置を受ける可能性があります。

 

4.食品表示に関与しない販売者の採り得る対策

 販売者において,事前に,販売する食品の表示を確認することが望ましいことは言うま

でもありませんが,現実には,全ての販売対象食品について事前の確認を行うことは,難

しい場合が多いのではないかと思われます。そこで,食品表示に関与しない販売者におい

て,責任を負うリスクを軽減するために,販売対象食品が食品表示基準に違反している場

合に備えて,採り得る対策としては,以下が考えられます。

(1)行政法上及び刑事上の責任

 食品表示事項として,表示責任者が製造業者又は商品供給元であることを明記しておく

ことにより,当該食品表示に関し一次的に責任を負う者が明確となります(通常,当該食

品の情報に最も精通している食品製造業者が表示責任者となる場合が多いかと思います。)。

そのため,かかる表示責任者の表記により,販売者が一次的な責任を免れることは可能で

あると考えられます。

 もっとも,前記のとおり,販売者自身も,食品関連事業者等として,食品表示基準に従っ

た表示がされていない食品を販売してはならない義務を負っていることから,販売した食

品において食品表示基準違反があった場合,食品表示法に基づく責任を完全に回避するこ

とは難しいものと思われます。

 

(2)民事上の責任

 販売者と商品供給元との契約において,食品表示に係る責任が商品供給元にあることを

明確にすることにより,販売者と商品供給元との間では,商品供給元に責任を負わせるこ

とが可能です。

 もっとも,食品表示基準違反が原因となって販売者が消費者から民事上の責任(債務不

履行責任や不法行為責任)を問われた場合には,販売者と商品供給元との契約内容は,販

売者における過失の有無や程度の判断に影響するものの,それによって直ちに販売者の民

事上の責任が免責されるものではないと考えられます。

 なお,食品表示基準に違反した食品を販売したことによる民事上の責任としては,例え

ば,特定のアレルゲン(食物アレルギーの原因となる物質)にアレルギー反応を起こす消

費者が,食品に当該アレルゲンに関する表示が欠如していたため,当該アレルゲンを含む

食品を摂取したことにより被害を受ける場合などが考えられますが,軽微な表示の誤りが

債務不履行に該当する場合は少ないように思われます。

 

 なお,今後,食品表示基準について,注意すべき点に関する記事も掲載する予定でおります。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

 弁護士 竹本 英世

 TEL:03-6267-4727

 E-mail: hideyo-takemoto@yglpc.com

 

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・発行者:弁護士法人淀屋橋・山上合同

・発行日:2016年2月29日発行

 

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