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YGLPCメールマガジン第13号(2012年10月31日発行)

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         弁護士法人淀屋橋・山上合同

 

        ★ YGLPCメールマガジン第13号 ★

 

      〜「新設分割が詐害行為取消の対象に!」  

                       その他2記事〜

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            今号の目次

           

 1.新設分割が詐害行為取消の対象に!

 

  2.平成24年通常国会 著作権法改正について

 

 3.労働法最前線

   労働者派遣法が改正されました!

 

 4.書籍のご案内

   『Q&A企業活動のための消費者法』

 

 過去のバックナンバー

 https://www.yglpc.com/wp/mailmag/index.html

 

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【新設分割が詐害行為取消の対象に!】

 

 新設分割に伴う本件不動産の承継が詐害行為に当たるとして、新設分割株式

会社に対して債権を有するXが、新設分割設立会社Yに対し、本件会社分割の

取消と、本件不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続とを求めた

事案において、最高裁は、以下のような点から、Xの請求を認容しました(最

判平成24年10月12日)。

 

(1) 株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会 

   社(本件ではY)にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について

     異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条

     の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができ

     る。

 

(2)  この場合においては、その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会

     社への権利の承継の効力を否定することができる。

 

 会社法810条は、一定の場合を除き、新設分割株式会社に対して債務の履行

を請求することができる債権者には、新設分割に対する異議を認めていません。

 

  そのため、本件のように、新設分割により、本来自己の債権の引き当てとな

っている資産が流出した場合でも、新設分割株式会社に対して債務の履行を請

求することができるXは、法810条に基づく異議を述べることはできず、会社

法によっては保護を受けることができません。

 

  このような状況下において、最高裁は、Xに詐害行為取消権の行使を認め、

Xの保護を図るべきことを判示しました。

 

  「会社分割が詐害行為取消の対象になるか」という点については、

 

(1)  会社の組織に関する行為である会社分割は、「財産権を目的としない法律

     行為」(民法424条2項)にあたり、詐害行為取消権の行使が認められな

     い、

 

(2)  新設分割を詐害行為取消権行使の対象とすると、新設分割の効力を否定す

     るための制度として新設分割無効の訴えのみを認めた会社法の趣旨に反 

     する

 

等の理由から、これを否定する裁判例も存在しましたが、近時の裁判例は、

 

(1)  会社分割は、財産権を目的とする法律行為としての性質を有する、

 

(2)  詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても、その取消

     の効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすも

     のではない

 

として、これを肯定する傾向にありました。

 

  本最高裁判例は、この争点について、最高裁として初めて、近時の裁判例の

傾向を踏襲する判断を示したものであり、実務への影響も大きいものと考えら

れます。

 

 なお、原審が、個別の財産移転を詐害行為取消の対象と判示していたのに対

し、最高裁は、新設分割自体を取消の対象とし、この場合には、「その債権の

保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定するこ

とができる」とした上で、原審と同じく、本件不動産についてされた所有権移

転登記の抹消登記を命じています。

 

  もっとも、最高裁は、原審とは異なり、新設分割それ自体を取り消した理由

及びそれによる影響については、明確に判示していませんので、かかる点につ

いては、更なる裁判例の蓄積が待たれるところです。

 今後の裁判例もあわせて、ご注目ください。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 高橋理恵子

 TEL:  06-6202-3465

 E-mail: r-takahashi@yglpc.com

 

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【平成24年通常国会 著作権法改正について】

 

 「著作権法の一部を改正する法律」が、平成24年6月に成立しました。

 今回の法律改正の主な項目は以下の5点です。

 

(1)いわゆる「写り込み」(付随対象著作物の利用)等に係る規定の整備

(2)国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信等に係る規定の整備

(3)公文書等の管理に関する法律等に基づく利用に係る規定の整備

(4)著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備

(5)違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定の整備

 

 以下では、上記のうち市民生活に関係が深い(1)、(4)及び(5)について、説明

いたします。

 

 今回の改正全般について知りたい場合には、下記URLの文化庁のウェブサ

イトをご参照下さい。

 http://www.bunka.go.jp/chosakuken/24_houkaisei.html

 

1.いわゆる「写り込み」(付随対象著作物の利用)等に係る規定の整備

 (1)  法改正の背景

     著作権法は著作権を独占権として保護する一方で、一定の場合には著作

    権の効力を制限することにより第三者の利用とのバランスを図っています。

 

      たとえば、テレビ番組で流れる映画番組は本来であれば映画会社の著作

    権で保護されますが、自宅のDVD機器で録画して個人で視聴を楽しむよ

    うな場合には、私的使用のための複製として、映画会社の著作権の効力を

    制限して個人による録画行為を許すようにしているものです。

 

      わが国著作権法は、このように著作権の効力を制限する場合には、個々 

    の場面を個別に列挙して、個々の条文で規定する方式を採用してきました。

 

      しかしながら、IT技術が発達した現代の時代において、このような個

    別列挙方式による場合には、インターネット上のコンテンツを従来想定さ

    れていなかった方法で利用する新規ビジネスの発展を阻害しかねず、著作

    権の効力を制限する場面を個別に列挙するのではなく、複数の欧米諸国が

    採用しているように、包括的に規定する制度(フェアユースと呼ばれてい

    ます。)が必要なのではないか、との意見が高まりました。

 

      そこで、いわゆる日本版フェアユース規定の導入について議論されてき

    ましたが、結局、わが国では上記のような包括的な著作権制限規定の導入

    は事実上見送られました。

 

      ただ、上記のような経緯もあり、個別の場面ごとに、著作権の効力を制

    限する規定が以下のとおり定められました。

 

      なお、この制度は、平成25年1月1日から施行されます。

 

 (2) 規定の解説

   ア 付随対象著作物の利用

    写真の撮影等の方法によって著作物を創作するに当たって、当該著作物

    (写真等著作物)に係る撮影等の対象とする事物等から分離することが困

    難であるため付随して対象となる事物等に係る他の著作物(付随対象著作

    物)は、当該創作に伴って複製又は翻案することができ、さらに、複製又

    は翻案された付随対象著作物は、写真等著作物の利用に伴って利用するこ

    とができることとされました。

 

      たとえば、写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、

    背景に小さく絵画が写り込んだ場合に、それをブログに掲載することや、

    街角の風景をビデオ収録したところ、本来意図した収録対象だけではなく、

    看板やポスター等に描かれている絵画等や流れていた音楽がたまたま録り

    込まれた場合において、その映像をテレビ放送したり、インターネットで

    流すことなどが該当します。

 

  イ 検討の過程における利用

   著作権者の許諾を得て、又は裁定を受けて著作物を利用しようとする者

  は、これらの利用についての検討の過程における利用に供することを目的

  とする場合には、その必要と認められる限度において、利用することがで

  きることとされました。

 

   たとえば、漫画のキャラクターの商品化を企画するに際し、著作権者か

  ら許諾を得る以前に、会議資料や企画書等にキャラクターを掲載する行為

  などがこれに該当します。

 

 ウ 技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用

   公表された著作物を、著作物の録音・録画等の技術の開発又は実用化の 

  ための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、

  利用することができることとされました。

 

   たとえば、テレビ番組の録画に関する技術を開発する場合に、技術を検 

  証するため、実際にテレビ番組を録画してみる行為などがこれに該当しま

  す。

 

 エ 情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用

   著作物を、情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合で

  あって、当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機

  による情報処理を行うときは、その必要と認められる限度において、記録

  媒体への記録又は翻案ができることとされました。

 

   たとえば、動画共有サイトにおいて、様々なファイル形式で投稿された

  動画を提供する際に、統一化したファイル形式にするために必要な複製行

  為がこれに該当します。

 

2.著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備

  コンテンツの不正な使用を制限するための技術的保護手段の方式は、コンテ

 ンツの複製に制限を設ける「コピーコントロール」方式と、コンテンツを暗号

 化するなどしてコンテンツを容易に閲覧できなくする「アクセスコントロール」

 方式とに分けられます。

 

   従来の著作権法では、これらのうち「コピーコントロール」技術のみが保護

 対象であって、「アクセスコントロール」技術については保護技術の対象外で

 した。

 

   すなわち、現在、DVDやBlu-ray Discなどには、コンテンツ提供事業者が映

 画などのコンテンツを暗号化することにより、機器での視聴や複製をコントロ

 ールする「アクセスコントロール」技術が用いられていますが、この技術は著

 作権法上の保護対象とはなっていなかったものです。

 

   しかし、マジコンなどの回避機器の氾濫により、コンテンツ業界に多大な被

 害が生じていることから、規制対象を強化する必要があるのではないか、とい

 う問題意識から、上記のような「アクセスコントロール」方式の技術的保護手

 段を著作権法の保護対象に加える法改正に至りました。 

 

   具体的には、私的使用目的であっても、暗号方式による技術的保護手段の回

 避により可能となった複製を、その事実を知りながら行う場合には、民事上違

 法となることとされました。

 

   この他、暗号方式による技術的保護手段の回避を可能とする装置又はプログ

 ラムの譲渡等を行った者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処

 し、又はこれを併科することとされました。

 

   これらの制度の施行時期は、平成24年10月1日です。

 

3.違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定の整備

 (1) 法改正の背景

     平成21年改正著作権法において、私的使用目的であっても、違法にアッ 

   プロードされたものと知りながら、権利者に無断で、音楽、映像をダウンロ

   ード(録音・録画)する行為を民事上違法とする旨規定されましたが、刑事

   罰までは設けていませんでした。

 

     しかしながら、平成21年改正著作権法の施行後も、依然として違法な音

   楽等の流通量が減少せず、コンテンツ産業に大きな被害が生じているとの理

   由により、今般の法改正において刑事罰が導入されたものです。

 

 (2) 制度の概要

    私的使用の目的をもって、「有償著作物等」の著作権又は著作隣接権を侵

   害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自ら

   「その事実を知りながら」行って著作権又は著作隣接権を侵害した者は、2

   年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すること

   とされました。

 

     ここでいう「有償著作物等」とは、録音され、又は録画された著作物、実

   演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像であって、有

   償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権

   又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいいます。

 

     たとえば、CD・DVDとして販売されていたり、有料でインターネット配信

   されているような音楽・映画作品が挙げられます。単にテレビで放送された

   だけで、有償で提供・提示されていない番組は、該当しません。

 

     そして、「その事実」、すなわち、「有償著作物等」であること及び「著作

   権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(インターネット配信等)」であ

   ることを「知りながら」録音・録画したという要件を満たさない場合には、

   著作権又は著作隣接権の侵害に問われることはありません。

 

     この制度は親告罪とされており、著作権者からの告訴がなければ公訴は提

   起されないこととされています。

 

     この制度の施行時期は平成24年10月1日です。

 

(3)  国民生活への配慮

    違法ダウンロードの刑事罰化は、法律に十分な知識を持っていない未成

   年者等に刑事罰という極めて深刻なペナルティを与えるおそれがあるもの

   であり、さらに、インターネットの正当な利用に対する抑止的効果を与えか

   ねないものであるため、事前の啓発や予防措置など様々な配慮が必要となり

   ます。

 

     そこで、著作権法附則により、(a)国及び地方公共団体は、違法ダウンロ

   ードによる著作権侵害行為の防止の重要性に対する理解を深めることがで

   きるよう、当該行為の防止に関する啓発等の措置を講じなければならず、特

   に未成年者には、学校その他の様々な場を通じて当該行為の防止に関する教

   育の充実を図らなければならないこととし、(b)関係事業者には、違法ダウ

   ンロードによる著作権侵害行為の予防措置を講じるよう努めなければなら

   ないこととされ、(c)インターネットによる情報の収集その他のインターネ

   ットを利用して行う行為が不当に制限されることのないように、警察は捜査

   権の濫用につながらないよう配慮するとともに、関係者である権利者団体は、

   仮に告訴を行うのであれば、事前に然るべき警告を行うなどの配慮が求めら

   れるとされています。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 藤川 義人

 TEL:  06-6202-4445

 

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【労働法最前線】

 

10月1日、労働者派遣法の改正法が施行されました。

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/
koyou/haken-shoukai/kaisei/

 

 今回の改正では、法律の正式名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及

び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正

な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に変更され、法の目的が

派遣労働者の保護にあることが明確化されました。

 

 また、派遣元・派遣先の双方に以下のような新たな規制が課せられることに

なりました。

 

【派遣元】

・日雇派遣の原則禁止

・グループ企業内派遣の8割規制

・有期雇用の派遣労働者について無期雇用への転換推進措置の努力義務

・いわゆるマージン率などの情報公開の義務化

・処分逃れを防止するため労働者派遣事業の許可等の欠格事由の整備

 

【派遣先】

・離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止

・違法派遣の場合に派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものと

 みなす(労働契約申込みみなし制度)

 

 なお、労働契約申込みみなし制度は、その施行が3年後の平成27年10月1

日に延期されましたが、導入された場合の実務への影響は非常に大きいものと

思われます。

 

 今回の法改正への対応はもちろん、派遣や請負などの非正規雇用全般に関し

て問題などがございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

 吉田 豪

 TEL:  06-6202-3389

 E-mail: t-yoshida@yglpc.com

 

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【書籍のご案内】Q&A企業活動のための消費者法

 

 向井大輔弁護士が編集・執筆に参加し、小坂田成宏弁護士、岩本文男弁護士、

松村圭祐弁護士、森田博弁護士が執筆に参加した「Q&A企業活動のための消

費者法」が民事法研究会より出版されましたので、ご案内申し上げます。

 

http://www.minjiho.com/wp/wp-content/themes/
custom/euc/new_detail.php?isbn=9784896288063

 

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・発行者:弁護士法人淀屋橋・山上合同

・発行日:2012年10月31日発行

 

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