トピックス
2013年02月26日
YGLPCメールマガジン第15号(2013年2月26日発行)
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弁護士法人淀屋橋・山上合同
★ YGLPCメールマガジン第15号 ★
〜中国労働法の改正と派遣実務への影響について
その他1記事〜
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今号の目次
1.中国法トピックス
中国労働法の改正と派遣実務への影響について
2.不動産契約の基礎知識
土地を賃借するときは建物所有目的と認められるための工夫を!
過去のバックナンバー
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【中国法トピックス】
中国労働法の改正と派遣実務への影響について
1.はじめに
2012年12月28日、中国の立法機関である全国人民代表大会常務委員会
によって改正された「中華人民共和国労働契約法」が公布され、2013年
7月1日から施行されることとなりました。
今回の法改正の目的は、労働者派遣(以下、労働契約法の記載に合わせて
「労務派遣」といいます。)の規制の厳格化にあります。
中国では、2008年1月施行の労働契約法において、労務派遣が認められ
る旨が法令上明記されましたが、以降、労務派遣は急増したといわれ、2011
年における全国の企業の全労働者中に占める派遣労働者の割合は13.1%と
されています。
都市部の外資企業ではさらに高い数十%の割合で派遣労働者を採用して
いる企業も少なくありません。
この状況下で、正社員と派遣労働者との格差や、派遣労働者の不安定な地
位が社会問題となりつつあることから、これを是正する趣旨で今回の改正が
行われました。
本改正は、労務派遣を活用していることが多い現地の日系企業にとっても
影響が大きいと思われます。以下、今回の改正労働契約法の内容、実務上必
要となる対応について、ご説明します。
2.改正法の概要
本改正によって変更された点には、以下の4点があります。
(1) 労務派遣業者の設立の厳格化(新法57条)
本改正では、改正前と比較して、労務派遣を経営するために必要な要件
を増加させ、厳格化を図っています。
具体的には、労務派遣業者について従来存在していた50万元の資本金
要件を200万元に増加させたほか、労務派遣業者が適切な固定の営業所及
び施設を有すること、法律・行政法規の規定する労務派遣管理制度に適合
すべきこと、法律・行政法規の定めるその他の条件を充足すべきことが法
定されています。
また、大きな変化として、労務派遣業の経営を許可制とし、行政の許可
を得なければ労務派遣を業とすることができないこととなった点が挙げ
られます。
当該行政許可については、既存の労務派遣業者に関する経過措置が定め
られており、既存業者については、施行後1年以内(2014年6月30日ま
で)に行政許可を取得し、変更登記を行うこととされています。
(2) 同一労働同一賃金制の徹底(新法63条)
同一労働同一賃金の原則は、改正前から派遣労働者の権利として労働契
約法に明記されていた原則ですが、改正法はこれをさらに具体化し、派遣
先企業に対して、労働報酬の分配方法において同一の職位の正規労働者と
同一の報酬配分方法を実施することを義務付けました。
また、労務派遣業者と派遣労働者との労働契約、派遣先企業との労務
派遣契約における報酬の記載又は約定は、同一労働同一賃金の原則に合
致しなければならない、と規定されました。
なお、同一の職位の労働者がいないときは、近似する職位の労働者の
報酬を参照して報酬を決定することとされています。
(3) 労務派遣の補充性の徹底(新法66条)
改正前の労働契約法においても、従来から労務派遣は正式の労働契約
の補充的立場に位置づけられていましたが、旧法では「一般的に」、臨時
性、補助性又は代替性のある業務に実施することとされており、その意味
内容は不明確でした。
これを、改正法では、臨時性、補助性又は代替性のある業務「にのみ
実施することができる」こととし、労務派遣の補充性を徹底させました。
また、改正法では、「臨時性」「補充性」「代替性」についての具体的基
準を明記しました。
これによれば、「臨時性」については「存続期間が6ヶ月を超えない職
位」、「補助性」については「主営業務の職位のために役務提供する非主
営業務の職位」、「代替性」については、正社員が「学習、休暇等の原因
で業務を行えない一定期間内に、その他の労働者に業務を行わせること
ができる職位」と定義され、これに該当しない場合は労務派遣の形態を
採用できないことが明確化されました。
さらに、企業内における派遣労働者の数は、一定の割合を超えてはな
らず、具体的な割合は国務院労働行政管理部門が規定することとされて
います。
(4) 罰則の強化(新法92条)
上記の法改正に合わせて、労働契約法上の罰則も強化されました。
まず、行政許可を得ずに労務派遣を行った者に対しては、行政部門によ
る違法行為の停止命令、違法所得の没収、違法所得の1倍以上5倍以下又
は違法所得がない場合は5万元以下の過料の行政処罰が規定されていま
す。
また、労務派遣業者、派遣先企業が本法に違反した場合には、期限を定
めた是正命令がなされ、期限を徒過して是正されなかったときは、1名
あたり5千元以上1万元以下の基準による過料、労務派遣業者に対する
労務派遣業務の営業許可証の取消という処分がなされる旨、労働者が被
った損害について労務派遣業者と派遣先企業が連帯責任を負う旨が明記
されています。
この条項については、過料の要件の変更及び増額が改正点です。
3.実務上の影響
上記の改正のうち、中国に進出する日系企業としては、基本的に中国にお
いて派遣労働者を受け入れる立場にあることから、当該立場から注意する点
を解説します。
まず、(1)のとおり、労務派遣を行う者は、遅くとも2014年6月30日まで
には法定の要件を備えて行政許可を取得する必要がありますので、派遣労働
者を受け入れる派遣先企業としては、違法な業者と労務派遣契約を締結する
ことがないよう、当該業者の資格について調査、確認する必要があります。
次に、(2)の同一労働同一賃金の原則については、派遣先企業に対しても、
労務派遣契約の報酬に関する義務を定めた規定が設けられたことから、労務
派遣業者との間で労務派遣契約を締結し、派遣労働者を受け入れる際の条件
設定を行う際に、同一労働に従事する正社員の給与水準と同一性が確保でき
る給与設定を行う必要があります。
また、正社員と派遣労働者との間で給与の差異が生じる場合は、同一労働
に従事するものでないことを説明するに足りる状況であるかを確認し、かつ、
類似の職位を参照とした給与設定を行うこと等の対策が必要になると考えら
れます。
(3)の労務派遣の補充性について、最も注目すべきは、派遣労働者の割合に
ついて明確な制限が設定されることです。
現時点において当該割合に関する規定は公表されていませんが、今後改正
法の施行までの間に規定が公表される予定であり、当該割合を遵守した採用
が求められることに注意が必要です。
また、臨時性、補助性、代替性に関する規定の具体化により、派遣労働者
に行わせることのできる業務に制限が加わります。
現在、主営業務において労務派遣を活用している企業にとっては、人員構
成、雇用体制の変更も視野に入れる必要があります。
なお、外国企業が中国国内に設置する駐在員事務所については、そもそも
現地スタッフの直接雇用ができず、労務派遣の形式に依らざるを得ないため、
上記の割合規制に関して何らかの調整や解釈が行われる可能性があり、これ
らに関する今後の動向に注目する必要があります。
もっとも、現段階でも、現地スタッフに行わせる業務を補充性のある業務
に制限すること等、本改正に対応した体制に移行する必要は駐在員事務所に
も生じると思われます。
上記のように、本改正法の施行日は2013年7月1日となっており、当該施
行日までに、新法に対応するための対策を検討、実施する必要があると思わ
れます。
<この記事に関するお問い合わせ先>
弁護士 仲井 晃
TEL: TEL:06-6202-3474
E-mail:a-nakai@yglpc.com
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【不動産契約の基礎知識】
土地を賃借するときは建物所有目的と認められるための工夫を!
ゴルフ場を経営するために土地を借り、地上権の設定を受けたものの、賃料
及び地代(以下「地代等」といいます)が高額で支払うことができない場合に
は、どうしたらよいでしょうか。
この点、借地借家法11条は、地代等が土地の価格の上昇等により不相当とな
ったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額
の増減を請求することができる旨を規定しています。
もっとも、地上権及び土地の賃貸借に関して借地借家法が適用されるのは、
「建物の所有を目的とする」場合に限られます(借地借家法1条)ので、建物
所有目的ではなく、ゴルフ場の経営を目的とする土地賃貸借においては、この
規定を直接の根拠とすることはできません。
それでは、この規定を根拠に減額請求する余地はまったくないのでしょうか。
あるゴルフ場の経営を目的とする土地賃貸借契約について、この規定を類推
適用して減額請求することができないかが争われた裁判において、いったん、
裁判所(高裁)は、借地借家法11条の立法趣旨の基礎にある事情変更の原則
や契約当事者間における公平の理念に照らせば、建物の所有を目的としない土
地賃貸借においてもこの規定の類推適用を認めるのが相当だと判断して、減額
請求を認めました(福岡高裁宮崎支判平成23年8月31日)。
しかし、この判決に対して不服申立がなされたところ、最高裁は、借地借家
法の趣旨に鑑み、以下のとおりの判断を示して、借地借家法11条の類推適用
を否定しました(最小判平成25年1月22日)。
(1) 借地借家法の借地に関する規定は、建物の保護に配慮して、建物の所有
を目的とする土地の利用関係を長期にわたって安定的に維持するために設
けられたものと解される。
(2) 同法11条の規定も、単に長期にわたる土地の利用関係における事情の
変更に対応することを可能にするというものではなく、上記の趣旨により
土地の利用に制約を受ける借地権設定者に地代等を変更する権利を与え、
また、これに対応した権利を借地権者に与えるとともに、裁判確定までの
当事者間の権利関係の安定を図ろうとするもので、これを建物を目的とし
ない地上権設定契約又は賃貸借契約について安易に類推適用すべきもので
はない。
(3) 本件契約においては、ゴルフ場経営を目的とすることが定められている
にすぎないし、また、本件土地が建物の所有と関連するような態様で使用
されていることもうかがわれないから、本件契約につき借地借家法11条の
類推適用をする余地はない。
以上のとおり、最高裁は、当該裁判で争われた土地賃貸借契約への借地借家
法11条の類推適用を否定しましたが、その理由として、上記(3)のとおり、
「本件土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかが
われないから」と判示しています。
これが、建物所有を目的としない借地権についてはおよそ借地借家法11条の
類推適用は認められないという趣旨なのか、それとも、契約内容や実態によっ
ては同条の類推適用が認められる場合もあるという趣旨なのかは、必ずしも明
らかではありませんが、建物の所有と関連するような態様で使用されている
ことが明確にわかる契約書が締結されていた場合には、異なる判断となった余
地があります。この点については、更なる裁判例の蓄積が待たれるところです。
なお、借地借家法11条の類推適用が否定された場合でも、事情変更の原則
(本記事末尾の注をご参照ください)による地代等減額請求は可能であり、本
件の最高裁もこれを認めています。
もっとも、事情変更の原則は、判例において一般的抽象論としては確立して
いるものの、実際に適用が認められた裁判例はほとんどなく、これに基づいて
実際に契約の改訂が認められる範囲は極めて限られると解されます。
今後も裁判例の動向に注目し、皆様に有益な情報をご提供いたしてまいりた
いと思います。
注)事情変更の原則
契約締結後に、その基礎となった事情が当事者の予見しえなかった事実の
発生によって変化し、このため当初の契約内容に当事者を拘束することが
きわめて苛酷になった場合に、契約の改訂または解除を認める原則
<この記事に関するお問い合わせ先>
弁護士 高橋理恵子
TEL: 06-6202-3465
E-mail: r-takahashi@yglpc.com
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・発行者:弁護士法人淀屋橋・山上合同
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