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雇用創出オムニバス法(7)- ポジティブリストの導入

【執筆者】大川 恒星

 「雇用創出オムニバス法(2)」で、雇用創出オムニバス法による投資法の改正を取り上げた。そこでは、「雇用創出オムニバス法によって、インドネシア投資の枠組みが大きく変更される。その詳細については、大統領令の制定を待つ必要がある。」と締めくくった。
 その後、2021年2月16日、インドネシア政府によって、政令45本、大統領令4本の制定が発表された。これらの細則制定までの状況については、「雇用創出オムニバス法(6)」をご確認いただきたい。
 投資法の改正については、大統領令2021年10号(ポジティブリスト)が制定された。政府のウェブサイト(https://jdih.setneg.go.id/Produk)でダウンロードできる。大統領令本文と添付資料1乃至3で構成される。
 従前の大統領令2016年44号(ネガティブリスト)1は、大統領令2021年10号(ポジティブリスト)に取って代わられる。
 そもそも、なぜ、ポジティブリストと呼ばれるのか)2。ネガティブリストは、投資禁止業種を含むものであったのに対し、ポジティブリストは、後記のとおり、優先業種リストのほか、投資が開放されている業種を規定するものであるからである(下表の黄色マーカー部分をご確認いただきたい。)。
 一見、ネガティブリストからポジティブリストに変わったことで、外資規制の仕組みが大きく変更されたようにも思われるが、実際は、仕組み自体に大きな変更はなかったと言ってよい。新たに優先業種リストが導入されたことに加えて、投資禁止業種が減少するとともに、投資制限業種が大幅に減少したことで、外資規制が大きく緩和されたことが重要である。下表でこの変更を一覧化した。投資禁止業種の減少については、前記の「雇用創出オムニバス法(2)」をご確認いただくこととし、その他の事項を以下で解説する。

  大統領令2021年10号(ポジティブリスト) 大統領令2016年44号(ネガティブリスト)
優先業種 (新設)245業種(ポジティブリスト・添付資料1) (規定なし)
投資禁止業種 投資法12条2項の以下の6業種
・ カテゴリーIの麻薬の栽培と製造
・ あらゆる形態のギャンブル・カジノ活動
・ 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約(CITES)の付録Iに記載されている魚類の捕獲
・ サンゴの利用・採取【要約】
・ 化学兵器製造業
・ 工業用化学剤産業とオゾン層破壊物質産業
「兵器、爆薬、爆発物、戦争用機材の生産」(旧投資法12条2項)と、20業種(ネガティブリスト・添付資料1)
中央政府のみが行うことができる活動 (新設)
※ 公共事業の性質を持つ活動又は防衛・安全保障の枠組みの中で行われる活動であって、第三者と協力して実施することが認められていないもの。
(規定なし)
零細・中小企業と協同組合に留保されている又は零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種 89業種(ポジティブリスト・添付資料2) 投資制限業種 145業種(ネガティブリスト・添付資料2)
(外資比率の上限等の)特定の条件付きで開放されている業種 46業種(ポジティブリスト・添付資料3) 350業種(ネガティブリスト・添付資料3)
   投資開放
※ ただし、別途個別法令上の規制あり
投資禁止業種と中央政府のみが行うことができる活動に該当せず、優先業種、零細・中小企業と協同組合に留保されている又は零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種、(外資比率の上限等の)特定の条件付きで開放されている業種のいずれにも該当しないもの 投資禁止業種と投資制限業種に該当しないもの

 なお、ポジティブリストは、2020年度版KBLIに基づき定められている。2020年9月、インドネシア中央統計局(BPS)は、従前の2017年度版KBLIに代わるものとして、 2020年度版KBLIを公表した。2020年版KBLIでは、時代の変化に応じて、200を超える新しい業種が設けられることになった。

2 優先業種リストの導入

 今回の改正によって、新たに「優先業種リスト」が導入された。大統領令2021年10号(ポジティブリスト)の添付資料1に、245業種が規定されている。これらの業種は、以下の判断基準で選ばれたものである(大統領令2021年10号4条1項)。各種の農業、漁業、資源開発、製造業等が含まれる。

  • 国家戦略的プログラムの一環
  • 資本・労働集約型
  • 高度な技術の利用
  • 先進的な産業への分類
  • 輸出志向
  • 研究・開発その他革新的な活動を対象

 この対象業種は、財政的優遇(法人所得税優遇(タックスアローワンス)、法人所得税一時減免(タックスホリデー)、関税免除等)や非財政的優遇(許認可取得の容易化、インフラ、エネルギー、原材料の提供、労働力確保等)を受けることができる(同大統領令4条4項乃至6項)。また、一部の業種については、「環境にやさしい技術の利用」「技術移転の実施」といった投資条件が定められている。

3 投資制限業種の大幅な減少

 「零細・中小企業 と協同組合に留保されている又は零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種」がポジティブリスト・添付資料2に、「(外資比率の上限等の)特定の条件付きで開放されている業種」がポジティブリスト・添付資料3に規定されている。いずれもネガティブリストのもとで投資制限業種とされていたものである。つまり、投資制限業種の枠組み自体は存続している。
 前者は145業種から89業種に、後者は350業種から46業種に、それぞれ大幅に減少しており、外資規制が大きく緩和された3

(1)零細・中小企業と協同組合に留保されている業種

 零細・中小企業と協同組合に留保されている業種は、51業種である。「単純な技術のみを利用」「労働集約型」「(事業用の土地・建物を除き)最大100億ルピア」といった判断基準で選ばれたものである(大統領令2021年10号5条2項)。例えば、簡素及び中度の技術を利用した建物建設(41011、41014-41020/KBLI番号を記載。以下同じ。)、サービス業(ランドリー(96200)、理髪店(96111)、ビューティーサロン(96112)、服の仕立て直し(95291)、コピー・書類作成その他のオフィスサービス(82190))といった業種である。
 外資企業は大企業に分類されるため、これらの業種を行うことはできない。

(2)零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種

 零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種は、38業種である。「零細・中小企業と協同組合が通常従事」「サプライチェーンを支えるもの」といった判断基準で選ばれたものである(大統領令2021年10号5条3項)。例えば、ブロイラーの養殖(01461)、魚の養殖(03211、03251、03221)、水産加工業(UPI)(10211、10212、10215、10216)といった業種である。
 外資企業は大企業に分類されるため、これらの業種を行おうとする場合には、零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップを組まなければならない。
 なお、このパートナーシップを組めば、外資100%での参入も可能である。

(3)(外資比率の上限等の)特定の条件付きで開放されている業種

 (外資比率の上限等の)特定の条件付きで開放されている業種は、日本企業の関心も高い。この規制は、経済特区内の投資(外国投資を含む。)には及ばない点は従前と同様である(大統領令2021年10号8条1項)。
 なお、酒造業は、従前は投資禁止業種であったところ、今回の改正によって外資にも開放されたと思われたが(ポジティブリスト・添付資料3・31番乃至33番)、その後、宗教団体の反発を受けて、ジョコ大統領は、2021年3月2日付けでこの点の改正の撤回を発表した。
 何と言っても、注目点は、規制対象業種の数が350業種から46業種へと激減したことである。その結果、多くの業種について外資規制が大きく緩和されることになった。例えば、以下の業種については、ネガティブリストに含まれていたが、今回の改正によって規制対象業種ではなくなった結果、別途個別法令上の規制に該当しなければ、投資は全面的に開放されていることになる。

  • 高度な技術の利用・高リスク・工事金額500 億ルピア超の建設サービス(ネガティブリスト・添付資料3・174番/外資最高67%等)
  • 高度な技術を利用・高リスク・工事金額100 億ルピア超の建設コンサルティングサービス(同・175番/外資最高67%等)
  • 売場面積が1200㎡未満のスーパーマーケット(同・179番/内資100%)
  • 生産に関連のないディストリビューター業(同・196番/外資最高67%)
  • 不動産ブローカー(同・195番/内資100%)
  • 倉庫業(同・197番/外資最高67%)
  • 映画宣伝ツール・ポスター・スチール・写真・フィルム・バナー・パンフレット・旗・フォルダー等の製作(同・243番/内資100%等)
  • 投資額が1000 億ルピア未満の電子システムを通じた商業取引の実施(同・300番/外資最高49%)
  • 病院(同・343番/外資最高67%等)

 なお、個別法上の規制について、例えば、建設業法は、外資企業が建設事業を行う場合、インドネシア資本の建設会社との合弁形態を求める。金融業や銀行業への投資については、それぞれの分野の規制に従うことになり(大統領令2021年10号11条2項)、監督官庁も投資調整庁(BKPM)ではなく、金融庁(OJK)やインドネシア銀行となる。このように、外国企業がインドネシアへの投資を検討する際に、大統領令2021年10号(ポジティブリスト)だけを確認すればよいわけではないことに注意されたい。

4 外資企業の最低投資総額のルールの変更
(1)外資企業向けの特別ルール

 従前のルールをおさらいすると、外資企業は、事業用の土地・建物を除く最低投資総額は100億ルピア超、引受・払込資本金額の最低額は25億ルピア、各株主の最低出資金額は1,000万ルピアといった外資規制に服さなければならなかった(投資調整庁長官規則2018年6号6条3項)。
 今回の改正を経ても、外資企業の最低投資総額(事業用の土地・建物を除く)は100億ルピア超とのルールは基本的に維持され、外資企業は大企業に分類される(大統領令2021年10号7条1項)。ただし、新たに例外が設けられた。技術系スタートアップによる経済特区内での投資であれば、投資額は100億ルピア以下に設定することができる(同大統領令8条2項)。

(2)外資企業の最低投資総額の遵守の方法

 リスクベースの許認可の導入については、「雇用創出オムニバス法(4)」で取り上げた。この点について、大統領令2021年10号と同じタイミングで、リスクベースの許認可の実施に関する政令2021年5号が制定された。この政令に、前記の外資企業の最低投資総額の遵守の方法に関する重要な変更が含まれている。
 この外資企業の最低投資総額の遵守の有無は、OSSシステム上で、KBLIの5桁番号ごと、プロジェクト場所ごとに判断される(政令2021年5号189条1項、2項)。一方で、いくつかの例外があり、以下のとおり、一部は従前よりも厳しい内容となっている(同条3項)。

  • 大規模商業は、KBLIの上4桁ごとに判断(従前はKBLIの上2桁ごと)
  • 飲食業は、一か所ごと、KBLIの上2桁ごとに判断(従前は1県/市ごと)
  • 建設業は、一つの活動につき、KBLIの上4桁ごとに判断(従前は「一つの活動につき」という定義だけ)
  • 製造業は、異なるKBLI(5桁)の製品を作っている場合にも、1つの生産ラインごとに判断
5 施行時期

 大統領令2021年10号(ポジティブリスト)は、2021年3月4日(公布日である同年2月2日から30日後)に施行となった(同大統領令15条)。
 外資比率の上限の条件付きで開放されている業種について、同月3日までの既存の投資は保護される。つまり、大統領令2016年44号(ネガティブリスト)に比べて外資規制が厳しくなった業種であっても、外資比率の引下げをもって新たな外資規制に対応する必要はない (大統領令2021年10号6条4項/グランドファーザー条項と言われる。)。なお、外資規制がより有利になった業種については、既存の投資から出資比率を上げることが可能である。

6 最後に

 このように外資規制は大きく緩和された。インドネシアへの新規投資を検討される日本企業はおられるだろう。また、インドネシアに進出済みの日系企業においても、外資規制がより有利になった業種については、既存の投資から出資比率を上げることを検討されるだろう。ただし、この外資規制の緩和は始まったばかりの制度であり、実務上の運用が固まっていない。また、別途個別法令上の規制が存在する場合もある。そこで、実際の投資に際しては、監督官庁である投資調整庁(BKPM)への事前確認を行うことや専門家からのサポートを受けることが望ましい。

※ 本コラムは、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに対する法的助言を想定したものではありません。個別具体的な案件への対応等につきましては、必要に応じて弁護士等への相談をご検討ください。また、筆者は、インドネシア法を専門に取り扱う弁護士資格を有するものではありませんので、個別具体的なケースへの対応は、インドネシア現地事務所と協同させていただく場合がございます。なお、本コラムに記載された見解は執筆者個人の見解であり、所属事務所の見解ではありません。

1 最新のものは大統領令2016年44号であり、JETROのウェブサイト(https://www.jetro.go.jp/world/asia/idn/invest_02.html)にその和訳が掲載されている。

2 プライオリティリストとも呼ばれる。

3 ただし、各リストの左端の番号で業種の数をカウントしている。ネガティブリストでは別々のリスト番号で個別に分類されていたものが、ポジティブリストではそれらが一つに纏められて一つのリスト番号が付されている場合もあるため、単純に比較できないことには注意されたい。