コラム

その他

改正消費者契約法のポイント

【執筆者】大川 恒星

1 はじめに

 平成29年6月3日に改正消費者契約法が施行されたことは記憶に新しいものと思います。
 平成13年に消費者契約法が施行されたのち、既に相当な期間が経過しましたが、今回の改正は、初めて、実体法部分の大きな改正を伴うものですので、実務上、重要です。

2 今回の法改正の端緒・経緯
(1)まず、今回の法改正の端緒ですが、
ア  社会経済状況の変化
(※ 近年の高齢化の進展を始めとした社会経済情勢の変化等により、高齢者の消費者被害が増加しており、改正前の消費者契約法では十分に被害救済を図ることが難しい事案が発生した。)
イ  裁判例等の蓄積
(※ 平成13年に消費者契約法が施行されてから、裁判例や消費生活相談事例が蓄積しており、その傾向等も踏まえ、適切な措置を講じる必要があった。)

 を理由に、消費者契約法の改正の必要性が議論されるようになったことがきっかけです。

(2)次に、法改正の経緯ですが、以下のとおりです。

平成26年8月5日: 内閣総理大臣から内閣府消費者委員会に対する諮問
(消費者契約法の規律等の在り方について)
平成26年10月: 消費者契約法専門調査会の設置
平成27年8月: 消費者契約法専門調査会の「中間取りまとめ」公表
平成27年12月: 消費者契約法専門調査会の「報告書」公表
平成28年3月4日: 「消費者契約法の一部を改正する法律案」の閣議決定及び国会への提出
平成28年6月3日: 公布
平成29年6月3日: 施行

なお、「報告書」では、

ア  解釈の明確化で一定の対応ができるものは、解釈の明確化を図る
イ  解釈の明確化だけでは対応できないものは、規律の明確化に留意しつつ、速やかに法改正を行う
ウ  アとイのほか、現時点で法改正を行うことについてコンセンサスが得られていないものについては、今後の検討課題として引き続き検討を行う

の3つに整理されて、基本的に、かかる整理に基づき、改正消費者契約法の公布・施行に繋がりました。

3 改正消費者契約法のポイント
(1) 改正消費者契約法のポイントとしては、大きく、以下の6つが挙げられます。

ア  過量な内容の消費者契約の取消し(第4条4項)
イ  不実告知による取消しに係る重要事項の範囲の拡大(第4条5項)
ウ  取消権の行使期間の伸長(第7条1項)
エ  消費者の解除権を放棄させる条項の無効(第8条の2)
オ  消費者契約法第10条の第一要件に該当する条項の例示(第10条)
カ  取消権を行使した消費者の返還義務(第6条の2)

 なお、消費者庁のホームページに掲載の「消費者契約法の一部を改正する法律に関する一問一答」には、アないしカの適用事例が多数掲載されております。

(2) 比較的分かり易いものから取り上げますと、ウは、取消権の行使期間を経過した被害事案の発生を受けて、短期消滅時効のみを6か月から「1年」に伸長するものです(長期消滅時効は5年のままです。)。
 今後、消費者、事業者のいずれにおいても、短期消滅時効が「1年」に伸長されたことを受けての対応が必要になるものと思います。
 エは、新たに、「事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる条項」と「消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があること(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があること)により生じた消費者の解除権を放棄させる条項」を無効とする明文を置いたものです。
 例えば、携帯電話端末の売買契約で、「契約後のキャンセル、返金、交換は、一切できません。」という条項は、理由の如何を問わず、消費者からの解除を一切認めないものですので、無効になります。
 カは、改正民法に対応する規定で、改正民法の施行後も、現在と同様、取消権を行使した消費者の返還義務を、現存利益に限定するものです。
 オは、最判平成23年7月15日民集65巻5号2269頁(建物の賃貸借契約における更新料条項の有効性が争われた事例)の趣旨を法文上明確にするもので、消費者契約法第10条の第一要件に、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」を例示するものです。
 なお、同条の第二要件は、法改正前と同様ですので、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する」に該当するか否かは、消費者が当該条項により受ける不利益の程度等を考慮して、事案に応じて判断されることになります。
(3) とりわけ、ア及びイは、実務上、重要です。
 まず、アですが、高齢者の判断能力の低下等に付け込んで大量に商品を購入させる被害事案が発生していたところ、従前は、公序良俗(民法第90条)や不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)で対処していましたが、新たに、「過量な内容の消費者契約の取消し」という取消規定を設けるものです。また、過去の同種契約と併せて、過量な内容の消費者契約に該当する場合を想定した規定も設けられています。
 実務上、個別事案における過量性の判断が重要になるほか、事業者が過量な内容であると認識しつつ、消費者契約の締結について勧誘したことが要件とされるなど、要件該当性の判断は慎重に行う必要があります。
 なお、個別事案における過量性の判断に際しては、類似の制度である特定商取引法の過量販売の規定や運用が参考になります。
今後、企業内部では、過量性の判断に係るガイドラインを策定することも想定されます。
(4) 次に、イですが、消費者契約の目的物に関しない事項についての不実告知による被害事案が発生していたところ、不実告知による取消しに係る重要事項の範囲を拡大するものです。
 具体的には、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」(改正消費者契約法第4条5項3号)、いわゆる動機部分に関する事由を付加するものです。
 その適用事例をイメージすることが難しいと思われますが、上記の「消費者契約法の一部を改正する法律に関する一問一答」の適用事例が参考になります。
 今後、不実告知による取消しに係る重要事項の範囲の拡大に伴い、実務上、改正消費者契約法第4条5項3号に基づく消費者契約の取消しの主張が増加していくものと思われます。
4 最後に

 改正消費者契約法のポイントを整理しましたが、実体法部分の大きな改正を伴うものですので、今後、その適用事案を注視していく必要があります。
 また、上記の「報告書」で、今後の検討課題となった事項については、今後、更なる法改正の可能性があるため、引き続き、この動向を見守っていく必要があります。

<この記事に関するお問い合わせ先>
  弁護士 大川 恒星
  TEL: 06-6202-7551
  E-mail: koji-okawa@yglpc.com