コラム

国際

中国法:中国「労務派遣暫定規定」の公布~派遣労働者の総量規制の具体化等~

【執筆者】金 大燁

一、新たに「労務派遣暫定規定」が2014年3月1日から施行されます。

 中国人力資源社会保障部は、2014年1月24日、労務派遣(注1)に関する最新規定「労務派遣暫定規定(注2)」(以下「暫定規定」といいます。)を公布し、暫定規定は、2014年3月1日から施行されます。
 中国においては、2008年1月1日施行の「中華人民共和国労働契約法(注3)」(以下「労働契約法」といいます。)によって労務派遣が認められることが法令上明記され、同年9月18日施行の「労働契約法実施条例(注4)」において若干の規定が置かれました。その後、正規雇用社員と派遣労働者との間の賃金格差や派遣労働者の不安定な地位等の問題が指摘されるに至り、2013年7月1日施行の改正労働契約法(注5)により、労務派遣の規制が厳格化されました。
 今回新たに公布された暫定規定は、昨年施行の改正労働契約法おいて不明確であったいくつかの点について内容を明確化したものであり、主要な点としては、労務派遣の雇用部署、雇用比率及び雇用比率調整の経過措置、派遣労働者の派遣元企業への送り戻しの条件及び経済補償、並びに地区を跨ぐ労務派遣の社会保険等の分野に関して、より具体的な規定を設けています。
 暫定規定の内容は、労務派遣を活用していることが多い日系企業にとって影響が大きいものと思われ、速やかに暫定規定の規制内容に対応した実務的措置をとることが必須であるといえます。
 そこで、以下、労務派遣を活用している日系企業に関連・影響する部分を中心に、既に施行されている労働契約法及び同実施条例における労務派遣の規制を概観し、今回新たに公布された暫定規定の内容についてご説明致します。なお、昨年の労働契約法改正については、当法人のメールマガジンの過去の記事(https://www.yglpc.com/wp/mailmag/201302_871.html)もご参照下さい。

二、労働契約法及び労働契約法実施条例における規制の概観
1.労務派遣の構造

 労務派遣とは、派遣元企業と派遣労働者との間で労働契約を、派遣元企業と派遣先企業(注6)との間で労務派遣協議を締結し、派遣元企業から派遣先企業に派遣労働者を派遣し、派遣労働者が、派遣先企業において業務に従事するというものです(労働契約法58条、59条)。

2.許可制

 労務派遣業務を経営するためには、労働行政部門に行政許可を申請し、法に従って会社登記を行わなければならず、許可を得ていない場合は、派遣元として、労務派遣業務を行うことはできません(労働契約法57条2項)。

3.労務派遣を用いることができる部署
(1)労務派遣の補充性
 労働契約法上、労働契約を用いた雇用が企業における基本的雇用形式であり、労務派遣は補充的雇用形式であると明記されており、労務派遣は、臨時性、補助性又は代替性のある業務部署(注7)でのみ用いることができるとされ、これらに該当しない場合には、労働派遣の形態を用いることができないとされています(労働契約法66条1項)。
(2)「臨時性」・「補助性」・「代替性」の内容
 上記の「臨時性」、「補助性」、「代替性」については、労働契約法に、以下の基準が設けられています(労働契約法66条2項)。

「臨時性」: 存続期間が6か月を超えない業務部署であること。
「補助性」: 主要業務部署のために役務提供する非主要業務の部署であること。
「代替性」: 派遣先企業が雇用する労働者が、学習、休暇等の原因で業務を行えない一定期間内に、その他の労働者に業務を行わせることができる部署であること。
4.同一業務同一報酬の原則

 同一業務同一報酬の原則とは、派遣労働者は、派遣先企業の労働者と同一の業務を行った場合には、同一の報酬を享受する権利があるという原則です(労働契約法63条)。
 派遣先企業は、派遣労働者に対して、同類の部署の正規労働者と同様の報酬配分方法を実施しなければならず、派遣先企業に同類の部署がない場合には、派遣先企業の所在地における同一又は類似する部署の労働者の報酬を参考とすることとされています(労働契約法63条)。

5.派遣労働者の雇用比率

 労働契約法においては、派遣先企業は労務派遣による雇用数を厳格に制御し、雇用総数の一定比率を超えてはならないと定められましたが、具体的な比率は国務院の労働行政部門の定めによると規定するのみで、具体的な比率は定められていませんでした。この点、後述のとおり、新たに公布された暫定規定において、10%という具体的な比率が定められました。

6.罰則

 無許可で労務派遣業務を行った場合には、行政部門から違法行為停止の是正命令を受ける他、違法所得の没収、違法所得の5倍以下(違法所得がない場合は5万元以下)の過料が課せられます(労働契約法92条1項)。
 また、派遣元企業、派遣先企業が労務派遣の規定に違反した場合、行政部門が期限を定めて是正命令を行い、期間内に是正されないときは、1人につき5千元以上1万元以下の基準の過料を課され、派遣元に対しては労務派遣業務の営業許可証の取消処分がなされます。また、派遣先企業が派遣労働者に損害を与えた場合、派遣元企業と派遣先企業は、連帯して賠償の責任を負うこととされています(労働契約法92条2項)。

三、新たに施行される「暫定規定」の内容
1.補助性業務に関する派遣先企業における社内手続の新設

 暫定規定においても、労働契約法の規定と同様に、臨時性、補助性又は代替性のある業務部署にのみ派遣労働者を使用することができると規定され、臨時性、補助性、代替性について、労働契約法と同一の基準を規定しています(暫定規定3条1項、同2項)。
 これに加えて、暫定規定は、労働契約法の規定を一歩進め、補助性部署について、派遣先企業が派遣労働者を使用する補助性部署を決定する際には、従業員代表又は全従業員との協議を経て案及び意見を提出し、労働組合又は従業員代表と協議して確定し、かつ派遣先企業内において、従業員に公示しなければならないと定めています(暫定規定3条3項)。

2.暫定規定施行後2年以内に労務派遣の雇用比率を10%以下に。
(1) 派遣労働者の雇用比率の具体的数値の制定
 上記のとおり、労働契約法及び労働契約法実施条例では、派遣労働者の雇用比率について具体的な比率が定められていませんでした。
 これについて、暫定規定は、一つの企業が使用する派遣労働者の数は、従業員総数(労働契約を締結している労働者及び派遣労働者の合計を指します。)の10%を超えてはならないと具体的な比率を明確に規定しました(暫定規定4条1項、同2項)。
(2) 経過措置
 この雇用比率については、暫定規定施行以前に派遣労働者の数が従業員総数の10%を超える企業は、雇用調整案を制定し、暫定規定の施行の日から2年以内に規定された比率まで下げなければならいという経過措置が設けられ、派遣先企業は、制定した雇用調整案を現地の資源社会保障行政部門に届け出なければならないとしています(暫定規定28条1項、同2項)。
 但し、労働契約法の改正に関する決定の公布(2012年12月28日)より前に既に締結された労働契約及び労務派遣協議の期間満了日が、暫定規定の施行の日から2年後の場合には、法に従って期間満了まで労務派遣の履行を継続することができます(暫定規定28条1項但書)。
 さらに、暫定規定で定められた雇用比率に達するまでは、新たに派遣労働者を用いることができません(暫定規定28条3項)。
 なお、外国企業の駐在代表機構及び外国金融機構の駐中代表機構等が派遣労働者を使用する場合には、上記1の臨時性・補助性・代替性の部署の制限、及び派遣労働者の雇用比率の制限を受けないとされています(暫定規定25条)。
3.派遣協議書の記載事項の明確化

 労働契約法においては、派遣協議において、派遣部署及び人員数、派遣期限、労働報酬及び社会保険費の金額及び支払方法、並びに協議書に違反した場合の責任を定めなければならないとされていました(労働契約法59条1)。
 暫定規定は、労働契約法上求められている事項に加えて、以下の事項の記載を求めています(暫定規定7条)。
 (1)派遣する業務部署の名称及び性質、(2)勤務場所、(3)勤務時間及び休息・休暇に関する事項、(4)労災、育児又は疾病期間に関する待遇、(5)労働安全衛生及び研修に関する事項、(6)経済補償等の費用、(7)労務派遣協議書の期間、(8)労務派遣役務提供費の支払方法及び基準、(9)法律、法規、規章が定める労務派遣協議書に記載すべきその他の事項

4.派遣労働者の送り戻しの条件及び制限

 労働契約法においては、派遣先企業が、派遣元企業に対して派遣労働者を送り戻せる場合として、派遣労働者に労働契約法39条(使用者による即時解雇)、40条1項及び2項(使用者による予告解雇)の状況があるときのみを規定していました(労働契約法65 条2項)。
 これに対し、暫定規定は、派遣先企業が派遣労働者を派遣元に送り戻すことができる場合として、以下の3つの場合を新たに規定しています(暫定規定12条)。

(1) 派遣先企業に、労働契約法第40条3項(客観的状況に重大な変化が生じ、かつ、協議を通じて労働契約を変更できない場合)、第41条(経済人員削減)の規定する状況が生じた場合。
(2) 派遣先企業が法に基づいて破産、営業許可証の取消、閉鎖命令、取消、又は期限前解散若しくは経営期間満了後再度継続経営できないとの決定を受けた場合。
(3) 労働派遣契約が期間満了により終了した場合。

 但し、派遣労働者に「労働契約法」第42条が規定する疾病又は労働者の責めに帰さない負傷の規定された医療期間内、並びに女性労働者に妊娠、出産又は授乳等の状況がある場合は、(ⅰ)派遣期間が満了する前は、派遣労働者を送り戻すことはできず、(ⅱ)派遣期間の満了後は、上記の状況が消滅するときまで延長しなければならず、上記の状況が消滅したときに送り戻しをすることができます(暫定規定13条)。
 なお、派遣先企業が暫定規定に違反して派遣労働者を送り戻した場合、労働契約法92条2項に規定する罰則(労働行政部門の是正命令、一人当たり5千元以上1万元以下の過料)を受けます(暫定規定24条)。

5.地区を跨る労務派遣の社会保険

 地区を跨る労務派遣について、労働契約法及び労働契約法実施条例においては、派遣元企業が地区を跨って派遣労働者を派遣する場合、派遣労働者の労働報酬及び労働条件は、派遣先企業の所在地の基準に従うという点のみを規定していました(労働契約法61条)。
 暫定規定は、この場合の社会保険の加入に関して新たに規定しました。すなわち、派遣元会社は派遣先企業の所在地において、派遣先企業の所在地の規定に従って派遣労働者のために社会保険に加入することを要求しています(暫定規定18条1項)。また、(ⅰ)派遣元会社が、派遣先企業の所在地において分支機構を設立した場合には、その分支機構において保険加入手続を処理し、社会保険費を支払い、(ⅱ)派遣元企業が、派遣先企業の所在地において分岐機構を設立していない場合には、派遣先企業が、保険加入手続の処理を代行し、社会保険費を支払わねばならないとしています(暫定規定19条1項、同2項)。

四、今後の実務的対応の必要性

 以上のとおり、暫定規定は、労働契約法及び労働契約実施条例の規定内容を明確化ないし補充したものですが、特に、補助性業務部署の決定についての社内手続の整備(暫定規定3条3項)、労務派遣の雇用比率の調整(暫定規定4条、28条)については、実務的な影響が大きく、労務派遣を活用している日系企業においても、速やかに対応する必要があります。

【労務派遣暫定規定全文(中国人力資源社会保障部HPより)】
【-注-】
  1. 日本では「労働派遣」又は「労働者派遣」という用語が用いられますが、中国の法令の用語に従い「労務派遣」といいます。
  2. 中文名称「劳务派遣暂行规定」(中華人民共和国人力資源及び社会保障部令第22号)
  3. 中文名称「中华人民共和国劳动合同法」(主席令第65号)
  4. 中文名称「中华人民共和国劳动合同法实施条例」(国務院令第535号)
  5. 全人代常務委員会「关于修改《中华人民共和国劳动合同法》的决定」(主席令第73号)
  6. 法文上は「用工単位」とされています。
  7. 法文上は「岗位」。「部署」「職位」「業務」などと訳されますが、ここでは「部署」という用語を用います。