トピックス

YGLPCメールマガジン第10号(2012年7月30日発行)

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

         弁護士法人淀屋橋・山上合同

 

        ★ YGLPCメールマガジン第10号 ★

 

   〜 メンタルが不調な従業員への対応が問題となった事例

                          その他1記事〜

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

                                   

            今号の目次

           

 1.労働法最前線

   メンタルの不調による欠勤者への対応が問題となった事案につき、最高

  裁が判断を示しました。

 

 2.契約交渉に役立つ独禁法の基礎知識Vol.3

   エンドユーザーとの直接の接触、交渉を禁止する定めは有効でしょうか。

 

 過去のバックナンバー

 https://www.yglpc.com/wp/mailmag/index.html

 

■─────────────────────────────

【労働法最前線】

 

 近時、職場のメンタルヘルスに関する関心が高まっている中で、最高裁は、

メンタルの不調による欠勤者への対応が問題となった事案につき、注目すべき

判断を示しました。

最高裁平成23(受)第903号同24年4月27日第2小法廷判決

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82225&hanreiKbn=02

 

 原告は、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存

在しないにもかかわらず、約3年にわたり加害者集団から日常生活を子細に監

視され、職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを

受けていると認識しており、会社に対し、その調査を依頼した上で休職を求め

たものの、納得できる調査結果が得られず、休職も認められなかったため、「自

分自身が上記被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない」旨

を会社に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を

続けました。

 

 会社は、この原告の欠勤を就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない

無断欠勤であるとして諭旨退職の懲戒処分を行いました。

 

 しかし、最高裁は、「原告の出勤しない理由が存在しない事実に基づくもの

であることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨

退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使

用者の対応としては適切ではない」として、当該処分を無効と判断しました。

 

 本件の最高裁判例は、諭旨退職処分が無効であると判断する前提として、精

神的な不調が欠勤の原因である以上、会社としては、精神科医による健康診断

を実施するなどした上で(当該会社の就業規則には、必要と認めるときに従業

員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあったようです)、そ

の診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、

その後の経過を見るなどの対応を採るべきであったとも判示しており、このよ

うなケースで会社側が執るべき対応を示唆するものといえます。

 

 メンタルヘルスに対する関心の高まりもあり、今後もさらなる裁判例の積み

重ねが考えられます。本件とあわせて、今後の動向にもご注目ください。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 高橋理恵子 

 TEL:  06-6202-3465

 E-mail: r-takahashi@yglpc.com

 

■─────────────────────────────

【契約交渉に役立つ独禁法の基礎知識Vol.3】

エンドユーザーとの直接の接触、交渉を禁止する定めは有効でしょうか。

 

[設例]

 メーカーである当社X社は、Y社がA社向けに開発したエンジン(以下「対

象製品」といいます。)の製造を受託することになりました。

 

 Y社から提示された取引基本契約書では、「X社は、A社に対して直接接触、

交渉をしてはならない」との定め(以下「本件特約」といいます。)が置かれ

ています。

 

  当社は、対象製品とは別タイプのエンジン開発を進めており、将来A社に

直接販売をしたいと考えているのですが、このまま契約を締結しても大丈夫で

しょうか。

 

[検討]

 

 (1) まず本件特約の適用対象を明確にする必要があります。

 

   つまり、「対象製品に関して」A社と直接接触、交渉してはならない義

  務を定めたものか、そのような限定なく包括的にA社との接触、交渉を禁

  止したものなのか明確ではありません。

 

 (2) 仮に後者のように本件特約を包括的な禁止を定めたものと広く解する

  場合、本件特約は、独占禁止法2条9項6号ニに基づいて、公正取引委員

  会が指定する不公正な取引方法のうち、拘束条件付取引(一般指定12項)

  に該当し、同19条に違反する可能性があります。

 

 (3) ところで、違法となる「不当」な拘束条件付取引かどうかは、「行為の

  形態や拘束の程度等に応じて」判断されます(最判平成10年12月18日

  民集52巻9号1866頁)。

 

   この判断にあたっては、事業経営上又は取引上の合理性や必要性も考慮  

  されるものと解されています。

 

 (4) 確かに、Y社には、A社に対する売主として品質管理等を適切に行うた

  めに、自己の把握しない情報のやり取りが発生することを回避する必要性

  もあることなどから、本件特約を対象製品に限定して接触を禁ずるものと

  解する場合には、それなりの合理性・必要性があるといえます。

 

   他方、本件特約を対象商品に限定せずに解釈する場合にも、例えば、Y

  社のノウハウその他の営業秘密をX社が流用して、A社と取引することを

  防止する等の必要性があるともいえます。

 

   もっとも、秘密保持義務が別途契約書上課されているのに、さらに対象

  製品以外の製品についても接触、交渉を禁止するのは、X社の事業活動を

  過度に拘束するものであり,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあ

  ると考えることも可能です。

 

 (5) そこで、X社としては、Y社に対し、本件特約について、適用対象が明

  確ではなく、仮に広く解した場合には、独占禁止法が禁止する不当な拘束

  条件付取引に該当するおそれがあることなどを指摘した上で、本件特約の

  適用対象を、対象製品に限定するよう持ちかけてみるのがよいでしょう。

 

   なお、別タイプのエンジン開発を進め、A社に対して営業活動を行うに

  あたっては、対象製品を供給するにあたりY社から取得したノウハウ等の

  営業秘密が用いられることのないよう、情報管理を徹底することが必要で 

  あることはいうまでもありません。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 森田 博          

 TEL: 06-6202-3542  

  E-mail: h-morita@yglpc.com

 

—————————————————————-

・発行者:弁護士法人淀屋橋・山上合同

・発行日:2012年7月31日発行

 

・本メールマガジンの配信停止・解除・配信先変更をご希望の場合、

  又は、本メールマガジンについてご意見等がある場合には、

  newsletter@yglpc.com

 までご連絡願います。

 

・本メールマガジンの一部又は全部の無断転載等は禁止いたします。