弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

コラム

改正相続法~配偶者の居住権を保護する制度の創設~

【執筆者】小坂田 成宏

1 はじめに

 民法の相続分野の規定を約40年ぶりに見直す改正相続法案が第196回通常国会に提出され審議されていましたが、今般、平成30年7月6日に参議院本会議で可決、成立しました。本コラムでは、改正法のうち、配偶者の居住権を保護するための施策についてご説明したいと思います。
 配偶者の一方が亡くなった場合、もう一方の配偶者は、それまで住んでいた建物(居住建物)に引き続き住み続けることを希望するのが普通です。特に、相続人となる配偶者が高齢である場合は、住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を立ち上げることは精神的にも肉体的にも大きな負担となりますので、高齢化社会の進展に伴い、配偶者の居住権を保護する必要は高まっています。また、配偶者が住み慣れた居住建物での生活を継続するために、遺産分割の際、居住建物を取得することが考えられますが、居住建物の評価額が高額となり、配偶者が居住建物以外の遺産を取得することができなくなってその後の生活に支障をきたす場合も生じ得ます。
 そこで、改正法では、①遺産分割協議がととのうまでの間等、短期的に配偶者の居住権を保護する制度と、②居住建物の財産的価値を居住権部分とその残余部分とに二分し、配偶者が終身または一定期間、居住建物の使用及び収益することができる権利が創設されることとなりました。このうち、①の権利が「配偶者短期居住権」、②の権利が「配偶者居住権」と呼ばれるものですが、以下、それぞれの権利の内容について見ていきたいと思います。

2 配偶者短期居住権について
(1)2つの類型

 配偶者短期居住権が成立する場合には、①居住建物について遺産分割をする必要がある場合と、②それ以外の場合(例えば、遺言により第三者に居住建物が遺贈されたような場合)の2つの類型があります。①と②の違いは、配偶者短期居住権の存続期間のみですので、①の類型を中心に成立の内容や要件等について説明します。

(2)配偶者短期居住権の内容と成立要件、存続期間

 配偶者は、被相続人の財産に属する建物に相続開始の時に無償で居住していた場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、居住建物の所有権を相続により取得した者に対して、居住建物を無償で使用する権利を有します(改正法1037条1項1号)。
 ここで、成立の要件を確認しますと、まず「配偶者」であること、次に居住建物が「被相続人の財産」であること、そして「相続開始時点」で「無償」で「居住」していたことが配偶者短期居住権の要件として必要となります。
 これらの要件を充たすとき、配偶者は、少なくとも6ヶ月間は、居住建物を「無償」で「使用」することができます。但し、配偶者が居住建物の一部のみを無償で使用していたとき(例えば、1階が店舗、2階が居住部分となっている建物で2階のみを使っていたような場合)は、その部分のみを無償で使用することができるにとどまり、その他の部分については、当然には無償使用することはできませんので注意が必要です。また、配偶者短期居住権は、後述する配偶者居住権と異なり、「使用」のみが認められ、「収益」することまでは認められていません。
 これに対し、遺言により第三者に居住建物が遺贈された場合等、居住建物につき遺産分割をする必要がない場合における配偶者短期居住権は、相続または遺贈により居住建物の所有権を取得した者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6ヶ月を経過する日までの間存続します(改正法1037条1項2号)。この配偶者短期居住権の消滅の申入れは、いつもで行うことができます(改正法1037条3項)。
 なお、現行法のもとでも、相続人の1人が相続開始前から被相続人の許諾を得て被相続人所有の建物に同居していた場合は、特段の事情がない限り、被相続人とその相続人との間で、相続開始時から遺産分割が終了するまでの間は使用貸借契約が存続すると判示した最高裁判例(平成8年12月17日最判民集50・10・2778)があり、これによる配偶者の居住権の保護が図られてきましたが、あくまでも当事者間の合理的意思解釈の基づく法律構成であるため、被相続人が明確にこれとは異なる意思を示していたとき(上記(1)②の類型の場合の多くはこれに該当すると思われます)は、配偶者の居住権が短期的にも保護されない事態が生じ得るので、配偶者短期居住権が新設された意義は小さくないと考えられます。

(3)配偶者短期居住権の効力(配偶者が有する権利・義務の内容)

 配偶者は、従前の用法に従って、善良な管理者の注意をもって、居住建物を使用する必要があります(改正法1038条1項)。
 そして、配偶者短期居住権は、一身専属的な権利であるため、譲渡することはできず(改正法1041条、改正法1032条2項)、また、配偶者は、他のすべての相続人の承諾を得なければ、第三者に居住建物を使用させることはできません(改正法1038条2項)。

(4)配偶者短期居住権の消滅

 配偶者が、上記(3)の用法遵守義務・善管注意義務に違反したり、他の相続人の承諾を得ずに第三者に居住建物を使用させたりしたときは、他の相続人は、意思表示により、配偶者短期居住権を消滅させることができます(改正法1038条3項)。
 また、配偶者が死亡したときや、後述する配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権は当然に消滅します(前者につき改正法1041条、民法597条3項、後者につき改正法1039条)。なお、配偶者の死亡により配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者の相続人が配偶者の義務(原状回復義務等)を相続することになります。

(5)その他

 配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができ(改正法1041条、改正法1033条1項)、他方、修繕が必要であるのにかかわらず配偶者がそれを行わないときは、他の相続人が代わりに修繕することができます(改正法1041条、改正法1033条2項)。そして、居住建物の通常の必要費は配偶者の負担とされ(改正法1041条、改正法1034条1項)、それ以外の費用を支出したときは、各相続人は、民法196条の規定に従い、その相続分に応じた償還義務を負います。
 また、配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者は居住建物を返還しなければなりません(改正法1040条1項本文)。しかし、配偶者が居住建物について共有持分を有するときは、他の相続人は配偶者短期居住権の消滅を理由として居住建物の返還を求めることができないため(改正法1040条1項ただし書)、配偶者は、居住建物の遺産分割が完了するまでは、使用の対価を支払う必要は生じるものの、依然として居住建物を使用することができます。
 そして、居住建物の返還にあたっては、配偶者は原状回復義務を負います(改正法1040条2項、民法621条)。配偶者は、相続開始後に居住建物に附属させた物を収去する義務を負うとともに、収去する権利を有します(改正法1040条2項、民法599条1項・2項)。
 なお、配偶者が支出した費用の償還請求や、配偶者の用法遵守義務・善管注意義務違反等に基づく他の相続人からの損害賠償請求は、居住建物が返還された時から1年以内に行わなければなりません(改正法1041条、民法600条)。

3 配偶者居住権について
(1) 配偶者居住権の内容と成立要件、存続期間

 配偶者は、被相続人の財産に属する建物に相続開始の時に居住していた場合、①遺産分割、②遺贈、③死因贈与のいずれかを原因として、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することができます(改正法1028条1項、民法554条)。
 配偶者短期居住権と同様に、「配偶者」であること、居住建物が「被相続人の財産」であること、「相続開始時点」で「居住」していたことが要件とされますが、配偶者短期居住権と異なり、居住が「無償」であることは必要ではありません。また、居住建物が被相続人と配偶者以外の者と共有である場合は、配偶者居住権は成立しません(改正法1028条1項ただし書)。
 そして、家庭裁判所における遺産分割審判で配偶者居住権が認められるのは、①共同相続人間で合意がある場合と、②配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、かつ、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮しても、配偶者の生活を維持するため特に必要があると認められる場合に限られます(改正法1029条)。
 また、配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間とされますが、遺産分割の協議、審判や遺言において一定期間と定めることもできます(改正法1030条)。
 なお、配偶者が配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値に相当する価額を相続したものと扱われます。

(2)配偶者居住権の効力

 配偶者居住権が成立したときは、配偶者は居住建物の所有者に対し、配偶者居住権の登記を設定するよう請求することができます(改正法1031条1項)。そして、かかる登記を備えたときは、配偶者は居住建物について所有権等の物権を取得した者やその他第三者に対して、配偶者者居住権を対抗することができるとともに、居住建物の占有を妨害する第三者に対する妨害停止の請求や、居住建物の占有者に対して居住建物の返還請求を行うことができます(改正法1030条2項、民法605条、民法605条の4)。
 また、配偶者は、従前の用法に従って、善良な管理者の注意をもって、居住建物を使用及び収益をする必要があります(改正法1032条1項)。
 そして、配偶者短期居住権と同じく、配偶者居住権も一身専属的な権利であるため、譲渡することはできず(改正法1032条2項)、また、配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の増改築や第三者に居住建物を使用または収益をさせることはできません(改正法1032条3項)。

(3)配偶者居住権の消滅

 配偶者が、上記(2)の用法遵守義務・善管注意義務に違反したり、居住建物の所有者の承諾を得ずに第三者に居住建物を使用または収益をさせたときは、居住建物の所有者は、相当の期間を定めて是正の催告をし、その期間内に是正がなされないときは、意思表示により、配偶者居住権を消滅させることができます(改正法1032条4項)。
 また、配偶者が死亡したときは、配偶者居住権は当然に消滅します(改正法1036条、民法597条3項)。なお、配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅したときに、配偶者の相続人が配偶者の義務(原状回復義務等)を相続することになるのは、配偶者短期居住権と同じです。

(4)その他

 居住建物の修繕に関する規定(改正法1033条)、居住建物に生じる費用の負担の規定(改正法1034条)は、配偶者短期居住権のそれと同じです。また、配偶者居住権が消滅したときの居住建物の返還義務(改正法1035条1項本文)、原状回復義務の内容や附属物を収去する義務及び権利に関する規定(改正法1035条2項、民法599条1項・2項)、並びに損害賠償請求や費用償還請求を居住建物の返還のときから1年以内に行わないといけないという点(改正法1036条、民法600条)も配偶者短期居住権の場合と同様です。

4 おわりに

 以上のとおり、改正相続法では、配偶者短期居住権と配偶者居住権という2つの制度が新設されましたが、配偶者短期居住権については、これが機能する場面は少なくないと想定され、配偶者の保護が図られることはもちろん、円満な遺産分割協議にも資するものと思われます。
 他方、配偶者居住権については、遺言や死因贈与契約に基づく場合は別として、遺産分割協議において実際にこれが機能する(利用される)場面はそれほど多くないのではないかと思われます。というのも、配偶者居住権の財産的価値をどのように算定するかについては、法制審議会の資料として試案が提言されているものの、その評価を巡っては意見が分かれているところであり、必ずしも遺産分割協議の円滑化に資するものとは言えないと考えるからです。
 そこで、相続人間で配偶者居住権を認める遺産分割協議が成立する場合を検討しますと、相続税における配偶者控除に着目した「節税」効果を期待して合意されるような場合が考えられます。例えば、相続人が配偶者と子の2人だけである場合、配偶者居住権の財産的価値を高く評価することで、居住建物の所有権を相続する子の相続税を低く抑えられないかという相続税スキームも検討されるかもしれません。現時点では確定的な見通しを立てることは困難ですが、配偶者居住権の今後の運用を巡っては、こういった税効果も含めた検討が重要になってくるものと思われます。

以上

  • アクセス
  • メールマガジン
  • コラム
  • 報酬規定
  • Q&A