コラム

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債権法改正に伴う時効管理の実務上の留意点

【執筆者】堀内 聡

第1 はじめに

 取引等により債権を保有する企業・個人にとって,その債権が「時効で消滅する」ことが不利益であることは言うまでもありません。
 今般の債権法改正により,時効にかかる規定が大きく変更されていますので,改正内容を理解し,新法に適した時効管理を行う必要があります。
 本コラムでは,消滅時効に関する改正を踏まえて,時効管理の実務上の留意点を検討したいと思います。

第2 改正の概要
1 時効期間の統一化

(1)旧法上,債権の消滅時効は,原則として10年(民法第167条)とされていますが,債権の種類等に応じて,時効期間が区分されています。
 たとえば,商行為によって生じた債権の消滅時効は5年(商法第522条)とされていますし,職業別に,1年ないし3年の短期消滅時効が設けられています(民法第170条ないし第174条)。ただ,このような区別は合理性に乏しい,どの債権についてどの時効期間が適用されるのかわかりにくい,との指摘がなされていました。

(2)新法では,次のとおり,原則として時効期間が統一されました。

新166条 債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する
1号 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2号 権利を行使できるときから10年間行使しないとき。

 この例外として,生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則が設けられました。生命・身体侵害による損害賠償請求権については,不法行為によるか債務不履行によるかを問わず,時効期間は,知った時から5年,権利行使可能時から20年に伸長されています(新法第167条)。

 新法での時効期間は下表のとおりです。

債権の種類 主観的起算点 客観的起算点
債権の履行請求権・債務不履行に基づく損害賠償請求権 知った時から 権利行使できる時から
5年 10年
不法行為 損害及び加害者を知った時から 不法行為の時から
3年 20年
生命・身体の侵害による損害賠償請求
(債務不履行・不法行為を問わない)
知った時から 不法行為時/権利行使できる時から
5年 20年
2 時効の中断・停止から「時効の完成猶予」と「更新」へ

(1)旧法上,時効中断事由として「請求」,「差押え・仮差押え」,「承認」の3つが定められていました(旧法第147条)。また,時効の停止事由として,「未成年者又は成年被後見人の権利」,「相続財産に関する権利」,「夫婦間の権利」について,一定期間,時効が完成しないことが定められていました。(旧法第158条ないし第160条)。

(2)新法では,「中断」「停止」という表現を改め,経過した時効期間がリセットされ,新たにゼロから時効期間がスタートするという「更新」と,時効が完成すべき時が到来しても時効の完成が一定期間猶予されるという「完成猶予」とに整理されました。
ただし,新法第164条では取得時効に関する「中断」という用語は残っています。ここでいう「中断」は特に改正されていませんので,その解釈も旧法における「中断」と同様に考えてよいと思われます。

3 時効の更新事由・完成猶予事由の見直し

(1)協議を行う旨の合意の導入
 新法では,当事者間で,協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録によってされた場合には,時効の完成が猶予されることとなりました(新法第151条)。
 これは,旧法では,当事者が裁判外で紛争解決に向けた協議を行っているような場合でも,時効完成を阻止するためには,時効中断のために訴訟提起等の法的手段を取ることが必要でしたが,紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうとの指摘に応えたものです。

(2)仮差押・仮処分は時効の完成猶予事由
 新法では,仮差押え及び仮処分については,後に債務名義取得が予定されていること等に鑑み,時効の更新(旧法の中断)の効果を有さず,時効の完成猶予の効果のみ有することとされました(新法第149条)。

(3)財産開示事由は更新事由
 財産開示手続は,旧法では時効中断事由と明記されていませんでしたが,新法では,時効の更新事由とされました(新法第148条第1項第4号)。

(4)新法での時効の更新事由・完成猶予事由は下表のとおりです。

時効の更新事由 備考
新法147条1項 裁判上の請求 確定判決等による権利の確定に至ることなく終了した場合は終了の時から6カ月間時効の完成が猶予されるにとどまる。
支払督促
即決和解・民事調停・家事調停
破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加
新法148条1項 強制執行 取下げの場合は更新しない。
担保権の実行
形式競売
財産開示手続
新法152条 承認
時効の完成猶予事由 猶予期間 備考
新法149条 仮差押え 事由が終了したときから6か月
仮処分
新法150条 催告 催告時から6か月 再度の催告,協議を行う旨の合意期間中の催告は完成猶予の効力を有しない(改正法150条2項,151条3項)
新法151条 協議を行う旨の合意 1)協議の合意がなされたときから1年間
2)協議期間が定められた場合には、その期間(1年未満)
3)協議期間中でも協議続行を拒絶する通知がなされたときは、その通知から6か月
4)再協議の合意が繰り返されても最長5年
書面又は電磁的記録による必要あり。
新法158条 未成年者又は成年被後見人に
法定代理人がいないとき
行為能力具備又は法定代理人就職から6か月
新法159条 夫婦間の権利 婚姻解消から6か月
新法160条 相続財産 相続人確定時,管理人選任時又は破産手続開始決定時から6か月
新法161条 天災その他避けることのできない事変のために147条1項,148条2項の手続を行うことができないとき 障害が消滅した時から3か月
4 時効の援用権者

(1)旧法第145条は,文言上,時効の援用権者は「当事者」と定めており,時効の完成によって直接の利益を受ける者はこれに該当するとされています(最判昭和48年12月14日民集27巻11号586頁等)。具体的には,当該債権の債務者,保証人,物上保証人,第三取得者などは時効の援用権者たる「当事者」であるとの解釈が一般的です。

(2)新法は,これらを条文上も明記することとし,新法第145条は,時効の援用権者を「当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有するものを含む。)」と規定しました。かかる改正経緯からすると,新法は,従来の判例等の考え方を否定するものではないと考えられますので,今後も,従来の判例等を踏まえた解釈をすることになると思われます。

5 定期金債権・定期給付債権

(1)旧法上,定期金債権は,第一回の弁済期から20年または最後の弁済期から20年間で時効消滅することとされていました。
 新法では,前記1のとおり,債権全般について主観的起算点と客観的起算点が設けられたことに合わせ,定期金債権に基づく支分権である定期給付債権を行使できることを知った時から10年間行使しないとき(主観的起算点),又は定期給付債権を行使することができるときから20年間行使しないとき(客観的起算点)には時効消滅する旨の改正がなされました(新法第168条第1項)。

(2)定期給付債権については,旧法上,時効期間を5年間と定められていましたが,新法における債権の原則的な時効期間と類似しており,別途の規定を設ける理由が乏しいことから,削除されました。

6 不法行為債権の除斥期間

 旧法第724条後段の20年の権利消滅期間について,最判元年12月21日(民集43巻12号2209頁)は除斥期間を定めたものであるとしていました。しかしながら,除斥期間であると解すると,時効中断や停止の規定の適用がなく,権利の消滅を阻止できないこと,除斥期間の適用に対しては信義則違反や権利濫用法理による排斥ができないといった不都合がありました。
 新法第724条第2号は,権利の消滅を阻止する手段を設けて被害者救済を図るべく,この判例の解釈を否定し,消滅時効を定めたものである旨明記しました。

7 経過措置

 改正民法附則第10条は時効に関する経過措置を定めています。改正民法の施行日は,平成32年(2020年)4月1日と決まりましたので,この日を境に,新法と旧法のいずれが適用されるかが異なることになります。

(1)時効の援用,時効期間については,施行日前に債権または債権発生原因たる法律行為(主に契約)がなされていれば旧法が適用されることになります(附則第10条第1項,同第4項)。
 債務不履行責任や契約不適合責任(旧法の瑕疵担保責任)に基づく損害賠償請求権や停止条件付債権についても,その原因である契約締結日が基準となります。
 例えば,施行日前に取引基本契約を締結している当事者間で,施行日後に取引基本契約に基づく個別契約が締結された場合,債権は個別契約の成立により発生すると考えられますので,この場合は,新法が適用されることになると考えられます。
他方で,施行日前に締結された賃貸借契約に基づく賃料債権については,債権発生原因たる法律行為(契約)は施行日前になされていますので,旧法が適用されるということになります。

(2)時効中断・停止事由は,施行日前に生じた事由であれば旧法,施行日後に生じた事由であれば「更新」「完成猶予」事由として新法が適用されます(附則第10条第2項)。

(3)また,協議を行う旨の合意については,合意が施行日後であれば新法の適用があります(附則第10条第3項)。すなわち,施行日前に発生した権利であっても,施行日後に協議を行う旨の合意をすれば,時効の完成が猶予されます。

(4)不法行為については,被害者救済を優先すべきことから,新法の適用場面を広げるべく,以下の2つの例外が設けられています。

1) 不法行為による損害賠償請求権における長期の消滅時効期間(新法第724条2号)については,債権発生日(=不法行為日)ではなく,旧法第724条後段の20年の除斥期間が,施行日に既に経過していた場合に限って,旧法が適用されます(附則第35条第1項)。
2) 生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効については,旧法第724条前段の短期消滅時効期間(3年)が既に経過していた場合に限り,旧法が適用されます(附則第35条第2項)。
8 その他(労働債権)

 労働基準法第115条では,賃金,災害補償その他の請求権の消滅時効は2年とされていますが,今回の債権法改正ではこの点の改正はされていません。ただし,これらの消滅時効も,厚生労働省の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」において,時効期間を5年に統一することについて議論されており,今後の動向が注目されます。

第3 時効管理における留意点
1 新法と旧法の適用の可能性(経過措置)

 前記第2の7のとおり,施行日前に生じた債権(または債権発生原因たる法律行為)か施行後に生じた債権(または債権発生原因たる法律行為)かによって,新法,旧法いずれが適用されるのかが異なることになります。
 したがって,時効管理のためには,各債権の発生日またはその発生原因たる法律行為の発生日(契約日)を個別に管理することが必要になります。
 もっとも,時効の更新・完成猶予事由については,施行日後の事由であれば新法が適用されることになりますので,時効期間の問題と,更新・完成猶予事由については区別して管理する必要があります。

2 時効期間の改正

 前記第2の1のとおり,短期消滅時効の廃止により時効期間が延長されたものがある一方で,民事上の通常の債権については権利を行使することができることを知った時から5年間で時効消滅することになります。
 時効期間の統一化により,債権の種類等を細かく分類する必要はなくなりましたが,生命・身体侵害を理由とする損害賠償請求権について例外があること,賃金等債権は改正がなされていないこと等に留意する必要があります。

3 新法下での時効消滅を阻止する手段

 債権管理の実務上,時効完成を阻止することが重要であることに異論はないと思われます。そこで,以下では,新法のもとで消滅時効の完成を阻止する手段について検討してみます。

(1)時効の更新
 新法による時効の更新事由は前記の表のとおりであり,債権者としては,事案に応じて適切な手続を選択する必要があります。
 ここで注意が必要なのは,旧法では時効中断事由とされていた仮差押え,仮処分が時効の更新事由ではなく,時効の完成猶予事由にとどまるとされている点です。

(2)時効の完成猶予
 新法における事項の完成猶予事由は,前記の表のとおりです。
 以下では,今後解釈上問題となりうる点について,私見ではありますが,検討を試みたいと思います。

ア 仮差押え,仮処分が「終了」する時期はいつか?
 新法で,時効の完成猶予事由とされた仮差押え,仮処分について,猶予期間の6ヶ月は,当該完成猶予事由が「終了」した時から起算されます。
 そこで,仮差押えや仮処分が「終了」したのはいつかという点が問題になり得ます。たとえば,貸金返還請求権を被保全債権として債務者所有不動産の仮差押えをした事案において,仮差押え決定を得た時点で,「その事由が終了した」ことになるのか,仮差押えの効力が継続している間は終了しないのかは,今後問題になると思われます。
 この点,最判平成10年11月24日(民集52巻8号1737頁)は,仮差押えの保全執行の効力が存続する限り時効中断が継続するとの見解を明らかにしています(いわゆる継続説)。法制審議会民法(債権関係)部会第79回議事録(34頁)では,合田関係官は「保全執行の効力が継続している限り,時効中断の効力は継続しているという判例法理については,今回の提案で変更する意図はありません。『その事由が終了した時』というのも,従来の判例法理における終了時点と同じ時点を指しているという趣旨」であると述べています。また,中間試案は,「仮差押命令その他の保全命令の申立て」とされていたところ,「申立て」という文言が削除されたという立法経緯も考慮すれば,新法でも,継続説が維持される可能性は高いと思われます。
 他方で,上記平成10年判決に対しても,登記さえしておけばいつまでの時効中断が続くのはおかしい等の批判がなされていること,新法が,仮差押えや仮処分は後に本案訴訟等の提起が予定されていることに鑑みて時効の完成猶予事由にとどめたことなどからすれば,新法第149条は仮差押え決定等の発令後6か月以内に権利行使すべき趣旨であるとして,仮差押え決定等の発令をもって「その事由が終了した」と解釈される可能性もないとはいえません。
 したがって,実務的には,慎重を期して,仮差押え決定等の発令後6か月以内に時効の更新事由の各手続を執ることも考えられます。

イ 時効の完成猶予中の協議を行う旨の合意は認められるか?(時効完成猶予事由の重複の可否)
 新法第151条第3項は,催告による時効の完成猶予期間中の協議を行う旨の合意,あるいは,協議を行う旨の時効完成猶予期間中の催告は,重ねて時効完成猶予の効力を有しない旨定めていますが,それ以外の事由については規定を置いていません。
 そこで,催告以外の事由により時効の完成が猶予されている場合に,他の事由による時効の完成猶予が重複して認められるのか,という点は今後問題になりうるところです。
 例えば,前記アで後者の解釈(=仮差押え発令により「事由」が終了するとの解釈)に立った場合に,仮差押え決定等の発令後6か月以内に協議を行う旨の書面による合意をすることで,時効の完成猶予が認められるのかという点が問題となり得ます。
 新法第151条第3項は,催告による時効の完成猶予期間中になされた協議を行う旨の合意は,完成猶予の効力を有しない旨規定していますが,仮差押え等の場合については規定していません。法制審議会部会資料80-3(6頁)では,「協議の合意による時効の完成猶予は、当事者間での自主的な紛争解決を図るための期間であると同時に、権利者が時効の更新に向けた措置を講ずるための期間でもあり、催告と同様の趣旨に基づく時効の完成猶予事由である」とされています。
 そうすると,新法第151条第3項は,同じ趣旨の完成猶予事由を重複して認めない趣旨であり,催告と協議を行う旨の合意という組み合わせ以外の時効完成猶予事由は,併存することを許容していると解釈することができます。
 このような解釈は,新法第151条第3項の反対解釈としても素直な解釈と考えられます。また,協議を行う旨の合意により時効の完成猶予を認めることにより,柔軟な紛争解決を図るという制度趣旨にも合致するともいえます。
 他方で,新法が,仮差押え等を時効の完成猶予事由にとどめたのは,その後に権利確定のための法的手続を採ることを促す趣旨であることや,法制審議会において,「協議の合意による時効の完成猶予の期間を,本来の時効期間の満了時から起算して最長で5年まで」(法制審議会部会資料80-3・6頁)とすることを前提とした議論がなされていることからすると,重複しては時効完成猶予の効力を認めないとの解釈をされる可能性も否定できません。
 実務的には,仮差押え等の後には,本案訴訟提起をすることが多いと思われますが,仮差押え等の後に任意交渉を行う事案もありうるところです。
 債権者の立場からすれば,時効完成が迫っているような場合には,慎重を期して,本案訴訟提起等,時効の更新事由である法的手続を選択することが無難といえます。

(3)協議を行う旨の合意の注意点

ア 注意点
 協議を行う旨の合意は,新法で初めて導入された制度であり,内容を正確に把握する必要があります。
 注意すべきポイントは次のとおりです。

  1. 1) 「書面又は電磁的記録」により行う必要があること
  2. 2) 単に,協議を行っているだけでは足りず,協議を行うことについて「合意」が必要であること
  3. 3) 一度の合意での猶予期間は1年(これより短期の合意は可能)であり,最大でも5年の猶予であること
  4. 4) 協議打ち切りの通知がされたときは,その時から6カ月間の猶予であること
  5. 5) 催告による時効の完成猶予期間中は,協議を行う旨の合意により時効の完成猶予期間を延長することができないこと(新法第151条第3項)。

イ 合意ができない場合
 例えば,2020年8月1日に消滅時効が完成する債権について,同年6月1日に協議の申入れをし,8月1日までに協議を行う旨の合意ができれば,新法第151条第1項による時効の完成猶予が認められますが,それまでに協議を行う旨の合意ができなければ,同条による時効の完成猶予は認められません。
 そうすると,債権者としては,事後的に「催告」とも評価し得るよう,権利行使の意思を明確にして申入れを行うか,本来の時効期間内に,当初の協議の申入れとは別途「催告」を行うことが必要でしょう(なお,この場合,催告による完成猶予期間中に協議を行う旨の合意をしてさらに猶予期間を延長することはできませんので,6か月以内に更新事由の手段を講じる必要があります。)。

ウ 「合意」の方法
 「合意」の要件につき,署名捺印を必要とするものでもなく,一通の書面による必要もないとする文献もあります(『一問一答・民法(債権関係)改正』49頁)。もっとも,債権者としては,後に合意の効力が否定されることを回避すべく,債務者の署名捺印のある合意書や覚書を取り交わすことが望ましいといえます。

エ 債権の一部についての「合意」
 上記のとおり,合意を一通の文書で行う必要はありませんので,例えば,交通事故(人身事故)に基づく損害賠償請求権について,被害者(債権者)が,協議を行いたい旨を書面で申し入れ,加害者(債務者)が,書面で,「物損については協議を行うことに応じるものの,人損については一切支払えないので協議に応じる余地はない」などと書面で回答した場合,時効の完成猶予の効力は生じるのか,生じるとしてもどの範囲で生じるのかということは問題になり得ます。
 物損については協議を行うことを双方が合意していることからすれば,合意が成立した部分のみ時効の完成猶予の効力が生じると解釈しても不都合はないように思います。
 他方で,人損部分については,協議を行うことを拒絶していますので,協議を行う旨の合意があったと評価することはできないと思われます。
 したがって,物損部分についてのみ協議を行う旨の合意が成立したとして,その部分についてのみ時効の完成猶予の効力を認めるということになると考えられます。
 もっとも,人損部分も含めた協議の申入れが,権利行使の意思を明確にしたものであれば,その部分について「催告」と評価することは可能と考えられます。
 いずれにせよ,被害者(債権者)としては,一部についてでも協議を行う旨の合意が成立しない場合には,当該部分について時効の更新を獲得する必要がありますので,実務的には,全体として,訴訟提起等の法的手続を選択することになると思われます。
 なお,このことは,全体について協議を行う旨の合意が成立した後,その一部について協議の打切りを通知された場合にも,同様に当てはまると考えることができると思われます。

オ 再度の合意
 また,新法第151条第2項に定める再度の合意は,時効の完成猶予期間中になされる必要があります。そのため,再度の合意を行なおうとする場合,時間に余裕をもって合意成立に向けた交渉を行う必要があります。再度の合意が成立しなかった場合,協議期間満了により消滅時効が完成しますので,協議期間が満了する前に時効の更新事由の手続をとる必要がある点に留意が必要です(この場合に,催告によって時効の完成を猶予させることはできません(新法第151条第3項後段)。)。

第4 まとめ

 以上のとおり,今般の債権法改正における消滅時効制度の改正点は多岐にわたります。当面の間は,新法が適用されるのか旧法が適用されるのかを区別した上で管理することになりますので,新法,旧法いずれも理解した上で債権管理にあたる必要があります。
 また,時効の「更新」「完成猶予」や,協議を行う旨の合意など新しい概念,制度が導入されています。本コラムでは,若干,新しい論点となりうる事項について私見を述べさせていただきましたが,これらに限らず,時効制度に関する解釈について,今後の議論をフォローすることが肝要でしょう。

以上