弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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ビッグデータやIoTのビジネスにおける契約の検討

【執筆者】増山 健

1 ビッグデータ時代の到来と契約

 防犯カメラの映像から購買者の店内を動きを把握してマーケティングに活用する,工場の機械の操作方法とバグのデータを分析して業務効率化を図る,自動車に取り付けたセンサーから運転状況を記録して自動車の技術向上に活用する・・・今や,IoTを活用したビジネスが普及し,大量のデータを取り扱うことが当たり前の「ビッグデータ時代」に突入しようとしています。しかも,かつてのような大企業や国のみではなく,中小企業や地方公共団体,さらには個人事業主までもが大量のデータを扱うようになってきました。
 本コラムでは,そのような「ビッグデータ時代」における,データ取引と契約の関係について,ごく簡単にですが検討をしてみたいと思います。

2 データ取引においては契約が重要

 データの取引を行うに際しては,個人情報保護法を中心とした諸々の法律に注意することも重要ですが,ビジネスとの関係でいえば,どのような契約スキームとするか,契約条項をどのように規定するかが非常に重要となってきます。それは,「データ」をコントロールする「法律上の権利」を観念することが難しいためです。
 例えば,ある会社が事業を通じて必死に集めたデータを,第三者に分析・加工することを依頼したところ,その第三者が勝手にそのデータの分析データを競合他社に売ってしまったという場合を考えてみましょう。この場合に,データを集めた会社は,分析データを勝手に競合他社に販売することを差し止める請求をしたり,損害賠償を求めたりすることができないものでしょうか。
 まず,「データ」は形のない「無体物」ですので,物に対する最も基本的な権利である所有権が及びません。自己の持っている何らかのデータを,誰かに盗まれても,それだけでは直ちにクレームをつけることができません。
 次に,必死にかき集めたデータや,それを分析したデータは「著作物」であるとして,著作権侵害を主張することが考えられます。しかし,著作物性が認められるためには「創作的な表現」が必要とされていますから,複雑なプログラムなどの場合はともかく,データそれ自体に集めるのに苦労したからといって,著作権が発生するとはいえないでしょう。
 さらに,営業秘密の盗用だ,ということも有り得るかもしれませんが,法律上(不正競争防止法上)保護される営業秘密に該当するためには,高度に秘密として管理していることが必要とされていますので,これも請求が認められる場合は限られてきます。
 そうすると,データそれ自体には,法律上の権利が発生する場合はむしろ限られており,これを保護して活用しようと思えば,データそれ自体を厳重に管理することに加えて,第三者と取引をする場合に,詳細かつ充実した契約を締結することが必須であるとえいます。取引の際に,取引相手に無制限にデータを利用されたり,転売されたりすることのないよう,契約書に必要な条項(データの利用権限や,データ利用によって得られた利益の配分に関する条項等)を盛り込んでおくべきです。

3 「新たなデータ流通取引に関する検討事例集ver1.0」とは

 では,データ取引を考える際に,契約書には具体的にどのような条項を盛り込めばよいのか,あるいはそもそも,何というタイトルの契約にすればよいのかといえば,難しい問題であり,個別のケース毎に専門家に相談すべき,としか言えませんが,現時点で参考となるガイドラインとして,「新たなデータ流通取引に関する検討事例集ver1.0」があります。
  http://www.soumu.go.jp/main_content/000471623.pdf
 これは,IoT推進コンソーシアム,総務省,経済産業省により設置された「データ流通促進ワーキンググループ」が,民間から相談を受けた20件のデータ取引に関する個別事例を,一般化・匿名化した上で紹介するものであり,平成29年3月10日公表されたものです。「委員から助言があった内容を基にまとめているものであり、事業者が留意すべき事項を網羅するものでは」ないという留保付きですが,少なくともビジネスモデルの構築や契約書の検討において,非常に参考になるものです。

4 検討事例1(気象データの取引)をもとに契約に関する問題点を検討してみる
(1)検討事例1をもととしたビジネススキーム

 上記事例集のうち,どの事例をとりあげても検討すべき事項や問題点は多岐にわたりますが,本コラムでは,検討事例1の気象データに関する取引における契約上の問題点を検討してみることとします。
 まず,検討事例1に記載されているビジネスモデルは,下図のとおりです。

  

 詳細な情報は明らかにされていませんので,実際の例とは異なる把握となるかもしれませんが,本コラムでは,上図をもととして,以下のような前提で検討をすすめたいと思います。

  • 物流関係業者が,全国各地の営業所にセンサーを設置して,気温や雨量等の気象データ(個人が特定される情報は含まない)をリアルタイムで収集する。
  • その気象データをもととして,物流関係業者がデータ分析機関へ依頼し,道路状況の予報や防災情報等(例えば,3時間後には国道○号のある区間が通行止めになる可能性が高い等)を内容とした予測データを作成する。
  • 物流関係業者は,その予測データを民間企業や研究機関などに販売するとともに,自社事業のために活用する。
(2)物流関係業者とデータ分析機関の間の契約はどのようなものとすべきか

ア 契約において考慮すべき主な点

 このとき,既に述べましたような「データ取引においては契約が重要である」という前提に立ったとして,物流関係業者とデータ分析機関の間の契約は,どのような契約を結ぶべきなのでしょうか。
 このビジネススキームにおいては,つまるところ,「予測データ」を誰がどれだけ使用できるのか(データの利用権限の問題),そこから生まれる利益を誰がどの程度取得できるのか(利益配分の問題)が,当事者にとって重要です。したがって,これらの利用権限と利益配分の問題について,契約で明らかにしておくことが必要となります。

イ 物流関係業者の立場に立った場合

 まず,物流関係業者の立場に立つと,できる限り自由に予測データを活用・販売して利益を得たいとともに,データ分析機関にその予測データを転売等されたくないというニーズがあるように思います。
 そうしますと,物流関係業者の立場からは,例えば,契約のタイトルを「データ分析業務委託契約」として,気象データの分析業務を,物流関係業者からデータ分析機関に対して委託し,一定の委託料を支払う,という形態がのぞましいことになります。そして,当該契約書には,以下のような条項を入れることとなります。
 まず,①予測データの利用権限に関し,物流関係業者は自由に利用,開示,譲渡(利用許諾を含む)及び処分することのほか,データに係る一切の権限を有するものとする一方,データ分析機関は,甲の事前の許諾がない限り,開示,譲渡(利用許諾を含む)及び処分等をすることができないことを明記します。
 次に,②利益配分に関し,物流関係業者は,データ分析機関に対して,「データ分析料」として金○円(定額)を支払うこととし,その支払条件を明記します。

ウ データ分析機関の立場に立った場合

 他方,データ分析機関の立場に立つと,気象データという生データを,価値ある「予測データ」に昇華させたのは,自己の功績によるところも大きいのにもかかわらず,その活用・販売の利益配分を全く得ることができないというのは不公平であり,いわば,予測データの販売が多くされればされるほど,自己にも利益が配分されるという仕組みにしたいというニーズがあるかもしれません。
 そのため,データ分析機関の立場からは,例えば,契約のタイトルを「共同研究開発契約」として,物流関係業者をデータ収集が役割の主体,データ分析機関をデータ分析が役割の主体として,共同して「気象予測データ」という一つの成果を得ることを目的として共同研究を行う形態をとることが考えられるでしょう。そして,当該契約書には,②利益配分に関し,物流関係業者が予測データを第三者に提供した場合には,その提供により得られた代金の数%を,物流関係業者からデータ分析機関に対して支払う,ということを明記しておくことが有り得ます。

(3)小括

 契約内容をどのようにするか,という問題は簡単なものではなく,具体的なスキームに応じて専門家に相談するべきですが,データ取引のビジネススキームを考える段階で,「契約でどの部分を押さえるべきか」を検討することは非常に重要です。本コラムの記載が,そのような検討のきっかけや一つの示唆となれば幸いです。

以上

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