弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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ビッグデータ・IoTビジネス

データ利活用の法務に関する最近の議論の整理

【執筆者】大林 良寛

1 はじめに

近時、IoTの進展、人工知能等の進化等により、顧客等から収集された大量のデータ(いわゆる、「ビッグデータ」)に従来なかった付加価値を見出し、利活用する動きが見られます。この動きは、「第4次産業革命」と言われたり、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会から数えて5つ目の超スマート社会との位置づけで「Society5.0」と言われたりするものです。それに伴い、データ利活用の法務について、様々な議論が活発に行われていますが、論点が多岐に渡るため、その全体像が掴みにくいところです。そこで、以下、最近の議論の整理をしてみたいと思います。

2 最近の議論の整理
(1)各議論のマッピング

データ利活用の法務に関する各議論をマッピングしてみると、以下の通りです。

(2)議論の出発点:データ

各議論の出発点となるデータで、現在注目されているものとしては、消費者の購買・行動履歴、自動車の運行履歴、工場の稼働履歴、IoTにより取得されたユーザー等の使用履歴等が挙げられます。これらのデータをいかにうまく活用するかが、各議論の出発点となります。

(3)データ利活用の法的保護

データ利活用の法務において大きな問題点のひとつが、「データは無体物であるため所有権を観念できない」(民法85条)、という点です。有体物の場合、実際に物理的に物が存在するため物理的に独占することができ、また、法的にも所有権を観念できるものですが、データについては、それができません。
データ自体の法的保護として、著作権法、不正競争防止法(営業秘密)等の知的財産法制度による保護が考えられます。ただ、結論としては、現行の知的財産法制度においては十分な保護を図ることは困難とされており、契約により、法的保護を図ることが重要とされています。この点については、内閣府の「新たな情報財検討委員会」の平成29年3月付け「データ・人工知能(AI)の利活用促進による産業競争力強化の基礎となる知財システムの構築に向けて」(注1)に詳細な議論がされています。
そのことを踏まえて、経済産業省は、平成27年10月に、「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン―データ駆動型イノベーションの創出に向けて―」(注2)、さらに、平成29年5月に、「データの利用権限に関する契約ガイドラインver1.0」(注3)を公表しています。これらは、データ利用権限を踏まえた契約書のガイドラインとして参考になるものです。データ利活用に関する契約書を作成するについては、「データオーナーシップ」という考え方を踏まえることが重要となってくるものと思われます。
なお、不正競争防止法については、平成29年7月27日に産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会が、次期通常国会に、「エータの不正取得の禁止や暗号化など技術的な制限手段の保護強化等」(知的財産推進計画2017)を目的とした改正不正競争防止法の法案提出することを視野に、検討を行っており、今後の不正競争防止法の改正の動向に注視する必要があります。

(4)パーソナルデータの保護

データの中には、個人情報を含むパーソナルデータが存在する場合があります。そのデータの取得、利用、第三者への提供等をする場合には、個人情報保護法を遵守する必要があります。
同法が個人情報取扱事業者に対して課す各種義務は、個人情報保護法はデータの利用を制限する方向のものですが、データ利活用の促進も図る必要があることから、「匿名加工情報」という新たな概念を取り入れた改正個人情報保護法が、平成29年5月30日に、施行されました。同改正法施行により、個人情報を含むデータであっても、匿名加工情報にすれば、①利用目的の範囲内の利用、②第三者提供のための同意取得が不要となり、ビッグデータとして自由に利用、流通させることができようになりました。

(5)独占禁止法

データ利活用が進み、その重要性が高まる中で、特定の企業が市場での支配的な立場を利用してデータを収集したり、不当にデータを囲い込んだりすることが、独占禁止法上の問題を生じさせ得ると懸念されています。それを踏まえて、公正取引委員会は、平成29年6月6日に、「データと競争政策に関する検討会」の報告書を公表しました。独占禁止法の観点は、データ利活用に関する契約書を締結する際にも必要となるものであり、今後の議論の動向を注視する必要があります。

(6)サイバーセキュリティ

大量のデータを保有するようになれば、それに応じて、そのデータの流出リスクや、外部からのハッキングリスクも高まるため、今後はさらに、サイバーセキュリティの重要性が増すと予想されます。
サイバーセキュリティが問題となった具体的な事例として、平成26年4月に発覚した、ベネッセコーポレーションの個人情報流出事件が記憶に新しいところです。自分の個人情報が流出した男性がベネッセコーポレーションに対し10万円の損害賠償請求を求めて訴訟提起した事件で、最高裁判所は、平成29年10月23日に、「個人情報を漏えいされて不快感や不安を抱いただけでは、直ちに損害賠償を求めることは出来ない」とした二審判決に対し、「情報漏洩によるプライバシー侵害は、法的保護の対象となる利益を侵害されていることから、単なる不安感にとどまるからというだけで、損害がないとはいえない。」として、破棄、差し戻しました。同事件の今後の動向が注目されるところです。

(7)AI固有の問題

データは、AIの機械学習のための学習用の生データとして利用されます。
AIについては、①AIが創作した創作物に知的財産権(特に著作権)が認められるか、②AIに関するプログラム自体に知的財産権(特に特許権、著作権)が認められるか、③AIによる判断、行為等について不法行為責任は誰が負うのか(例えば、車の自動運転による事故は誰が不法行為責任を負うのか)、④AIが締結した契約は有効か、⑤AIとの恋愛、家族問題(AI機能を備えたロボットと婚姻することができるか等)、等の各種の問題があり、これらは、AI固有の問題といえます。

3 まとめ

以上の通り、データ利活用の法務に関する論点は多岐に渡るものの、各論点は有機的な繋がりがあるといえます。技術の急速な発展も相まって、データ利活用の法務に関する議論も非常に速い動きを見せているところですので、議論の全体像を理解しながら、各個別の論点に関する最新の議論をキャッチアップしていく必要があります。

注1:
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf
注2:
http://www.meti.go.jp/press/2015/10/20151006004/20151006004-1.pdf
注3:
http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170530003/20170530003-1.pdf

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