弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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シンガポール法

シンガポール労働法改正 FCF規制によりシンガポールに日本人駐在員を自由に送れなくなるのか?

【執筆者】大林 良寛

1.FCF規制の施行

2014年8月1日から,シンガポール人に対して公平な雇用の機会を与えることを使用者に義務付ける新規制である,Fair Consideration Framework(FCF)規制が,シンガポールで施行されます。このFCF規制は,日系企業にも大きなインパクトを有するものですので,その具体的な規制内容を概観します。

2.FCF規制の内容
(1)EP申請における求人広告義務
ア. シンガポールでは,就労ビザは,Employment Pass(EP)と呼ばれており,シンガポール人材開発省(Ministry of Manpower,MOM)に,EPの申請をする必要があります。2014年8月1日以降に外国人労働者のためにEPを申請する場合は,申請の前に,当該外国人労働者に対する労働条件と同等の条件のシンガポール人に対する求人広告を,シンガポール労働力開発庁(Singapore Workforce Development Agency)が運営するJob Bankと呼ばれる求人募集サイトに,最低14日間掲載することが義務付けられます。
イ. FCF規制により,EP申請をする際には,従前のEP申請要件に加えて,以下の要件を満たすことが求められるようになります。
① 上記アの求人広告をすること
② 当該労働条件に合うシンガポール人がいないこと
③ EP申請が求人広告の締切日から3か月以内になされること
④ EP申請書にJob Bankの広告ID番号を記載すること
(2)差別的人事に対する調査
ア. 管理職,専門職(Professional, Managers, and Executives,PME)におけるシンガポール人従業員の割合が著しく小さい企業や,国籍を基準とした採用慣行に対する不服申立が繰り返しなされる企業は,シンガポール人材開発省から,国籍情報を含む組織図,従業員からの苦情処理手続き,従業員の昇進手続き,シンガポール人従業員の役割を高め外国人労働者への依存を改善するための計画書に関する情報の提供を求められる可能性があります。
イ. これらの要求への対応が十分でなく,差別的人事慣行を改善できない場合には,EPの申請又は更新の前後60日間,同様に雇用されたシンガポール人従業員を解雇しないことを宣誓させられたり,その後のEP申請の審査が厳格になり,審査期間が長引かされたりする可能性があります。
3.FCF規制の適用範囲

FCF規制による求人広告義務は,①労働者が25名以下の企業,②月額固定給料が12,000シンガポールドル以上の高給職については適用されません。もっとも,外国資本の企業にも適用されるため,例えば,日本企業が,そのシンガポール子会社,又は,シンガポール支店に,日本人従業員を駐在させるためにEP申請をする際にも,FCF規制による求人広告義務が課されることになります。なお,FCF規制の求人広告義務が免除される場合でも,差別的人事が許される訳ではありませんので注意を要します。

4.求人広告の方法,面接における質問,試験
(1)三者機関ガイドライン

シンガポール人材開発省などにより発表されている,「公平な人事慣行に関する三者機関ガイドライン」(Tripartite Guidelines on Fair Employment Practice)により,具体的な求人広告の方法,面接における質問,試験についての規制が規定されていますので,以下,それについて概観します。

(2)求人広告の方法
ア.概要

求人条件は,求人広告に明確に記載されていなければなりません。また,差別的であると認識される可能性のある特定の求人条件を求める場合には,それが当該仕事の条件であることが求められ,使用者は,求人広告において当該条件に対する説明を記載しなければなりません。以下,具体的に,各項目に沿って,差別的であると認識されうる求人広告について概観します。

イ.年齢

原則として,使用者は,採用の条件として,年齢を記載してはならず,「若い」,「若々しい労働環境」,「新卒者」などの特定の年齢層が望ましいことを連想させる言葉も使用することもできません。仮に,性質上,肉体的な負担を要求する仕事であれば,その負担を具体的に述べる必要があります。

ウ.人種

人種を求人条件にすることはできず,例えば,「中国人が望ましい」,「マレー人が望ましい」などの記述を求人広告にすることは許されません。

エ.言語能力

特定の言語能力を求人条件とすることも許されますが,使用者は,例えば,「日本人観光客のための観光ガイド。日本語の知識が必須」など,その必要性を説明することが求められます。

オ.性別

性別を求人条件とすることも許されますが,言語能力と同様に,例えば,「レディースの服飾店で,仕事中に服を着せてみせることが求められる」など,特定の性別が必要な理由を明確に求人広告に記載する必要があります。

カ.婚姻状況

独身か既婚かを求人条件とすることは許されません。

キ.宗教

当該仕事の条件のひとつとして,宗教的機能を務めなければならない場合を除いて,宗教を求人条件とすることは許されません。仮に,そのような場合でも,その旨を,明確かつ客観的に求人広告に記載する必要があります。

(3)面接における質問

面接における質問は,応募者の適格性を評価するために必要な質問だけに限定され,差別的であると認識されうる質問は,誤解を避けるために,応募者に対してその情報が必要な理由を説明しなければなりません。例えば,コールセンターのオペレーターの仕事であれば,顧客対応の関連する経験の説明を求める質問は許されますが,応募者の宗教に対する質問や,応募者に子供がいるかについての質問は,関連がない質問であるため許されません。

(4)試験

選考において試験をすることも許されますが,当該試験が,当該仕事の条件に関連するものであり,かつ,定期的に当該試験が関連性を有し,内容又は採点において先見が排除されているかを精査する必要があります。

5.実務上の注意点
(1) 上記のようにFCF規制は,日系企業に直接的な影響を持つ規制であるものの,その具体的な内容は,上記ガイドラインが発表されているといえども,必ずしも,明確であるとはいえないため,今後の事例の蓄積が期待されるところです。
(2) 万一,FCF規制違反であるとされた場合には,その後のEP申請の障害となる可能性が非常に高く,その場合,適切な人材を適時にシンガポール法人に配属させることができなくなり,事業の影響が出る恐れがありますので,FCF規制に対する慎重な対応が求められます。
(3) 上記ガイドラインも認めるように,シンガポールの経済発展は,外国人労働者に支えられている面はあるものの,一部のシンガポール人が,外国人労働者との間の給料格差や,外国人労働者増加に伴う公共交通機関の混雑・不動産価格の高騰に対して,不満を持っていることも歴然たる事実です。特に,日本人が圧倒的に多く,外国人労働者が少ない日本で生まれ育った日本人にとって,このような規制には不慣れな部分もあると思われますので,FCF規制に対する理解のみならず,多民族国家で働くことに対する理解についても深める方策を社内で整えていく必要があると思われます。
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