弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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シンガポール法

シンガポール契約法(1)努力義務条項 〜“best endeavors”と”all reasonable endeavors”に違いはあるのか?〜

【執筆者】大林 良寛

1 はじめに
(1)英文契約書における努力義務条項

 英文契約書において,“best endeavors”,”all reasonable endeavors”,”reasonable endeavors”などの,いわゆる努力義務条項をよく見かけます。契約当事者間で,“best endeavors”か”reasonable endeavors”のいずれの文言にするか意見が合わない結果,双方妥協した上で,それらの中間的な意味を有するように思われる”all reasonable endeavors”で合意に達するということもありますが,そのような交渉に問題はないのでしょうか。
 日本語の契約書においても,「〇〇のため最大限努力する」,「〇〇のため合理的な努力を尽くす」などの文言が使われることがありますが,英文契約書における努力義務条項と,日本語の契約書における努力義務条項は同様の意味を有するものと考えて問題はないのでのしょうか。

(2)シンガポールの上訴院における初判断

 2014年2月26日に,シンガポールの上訴院(the Court of Appeal。シンガポールにおける最上級裁判所)が,“best endeavors”と”all reasonable endeavors”の意義についての初判断を下しました(KS Energy Services Ltd v BR Energy (M) Sdn Bhd [2014] SGCA 16[1]。以下「KS Energy Servicesケース」といいます。)。
 “best endeavors”,”all reasonable endeavors”,”reasonable endeavors”についての考え方は,シンガポールに限らず,英文契約書のドラフト,交渉において重要ですので,以下,その判断を中心に努力義務条項について概観します。

2 イギリスの裁判所における考え方[2]
(1)”reasonable endeavors”

 ”reasonable endeavors”について,イギリスの判例は,「”reasonable endeavors”は,義務者にあるひとつの合理的な行動を取ることを要求するのみであり,全ての行為を要求するものではない。」と判示しています(Rhodia International Holdings v Huntsman International [2007] 2 All ER (Comm) 577。以下「Rhodia International Holdingsケース」といいます。)。

(2)”best endeavors”

 ”best endeavors”について,イギリスの判例は,「”best endeavors”は,”次善の努力を意味しない”という言葉が言わんとすることを意味」し,「義務を負う当事者が,石がひっくり返ったままに放っておいてはいけないとういことを意味する」と判示しています(Sheffield District Railway Co v Great Central Railway Co (1911) 27 TLR)。

(3)”all reasonable endeavors”と”best endeavors”の関係

 ”all reasonable endeavors”と”best endeavors”の関係(つまり,”all reasonable endeavors”は,”best endeavors”と”reasonable endeavors”の中間的な意義を有するものか否か)については,イギリスの判例の態度は必ずしも一貫しているとは言えません。具体的には,Rhodia International Holdingsケースは,”all reasonable endeavors”の義務と”best endeavors”の義務は同等であると判示していますが,別の判例は,両者の義務は同一ではないと判示しています(CPC Group v Qatar Diar Real Estate Ltd [2010] All ER (D) 222。以下「CPC Groupケース」といいます)。

(4)参考:アメリカの裁判所における考え方

 なお,アメリカの判例で,「”reasonable efforts”は,”best efforts”と交換的に(同意義に)取り扱う」と判示しているものがあります(Scott-Macon Sec., Inc v Zoltek Cos., No.04-Civ.-2014,2015 US. Dist. LEXIS 9034 (S.D.N.Y.2005))。

3 シンガポールの裁判所による初判断:KS Energy Servicesケース
(1)事実

 KS Energy Servicesケースの事実の概要は以下のとおりです。

原告と被告は,WPUと呼ばれるオイル鑿井(さくせい)機械を製造するため,ジョイントベンチャー契約を締結した
被告は,当該ジョイントベンチャー契約に基づき,”all reasonable endeavors”を使って,WPUが期限内に製造され,原告に引き渡されることを確証することが義務付けられていた(すなわち,被告自身でWPUを製造することは求められていなかった)
被告は,自身でWPUを製造する能力はないため,中東の会社に,WPUの製造を委託し,当該中東の会社を監督した上で製造を促したものの,当該中東の会社による製造の遅延のため,結局,期限内にWPUを製造させることはできなかった
そこで,原告は,被告に対して,契約違反を主張して,訴訟を提起した
(2)上訴院による判断

 上訴院による努力義務条項に関する主な判断内容は以下のとおりです。

”best endeavors”と”all reasonable endeavors”を区別しようとすることは,「髪の毛を裂くような無駄な作業」であり,通常,両者の義務の程度は同一と解釈されるべきである
仮に,同一の契約書に”best endeavors”と”all reasonable endeavors”が併存していたとしても,それらの義務の程度が別途特定されていない限りは,その結論に変わりはない(=両者の義務の程度は同一と解釈される)

”best endeavors”と”all reasonable endeavors”は,義務者に「相手方の利益において行動し許された時間内に契約書に明記された結果を得ることを望んでいる分別があり固く決心した者であれば取る合理的な全ての手立てを取ること[3]」を求めるものである

”reasonable endeavors”は,義務者にそれらの全ての手立てを取ることを求めるものでなく,それらのうちのひとつのみを取ることを求めるものであり,”all reasonable endeavors”の方が,”reasonable endeavors”よりも義務の程度は高度である

 上訴院は,努力義務条項についてこのような分析をした上で,本件の事実関係においては,被告は,”all reasonable endeavors”を尽くしたものとして,被告による契約違反を認めた高等法院の判断を覆して,被告による契約違反を否定しました。

4 実務上の注意点
(1) このように,上訴院において,”all reasonable endeavors”と”best endeavors”は,通常,同意義と解釈されるべきとされましたので,少なくとも,シンガポールにおいては,冒頭に記載したような,契約当事者間で,“best endeavors”か”reasonable endeavors”のいずれの文言にするか意見が合わない結果,双方妥協した上で,”all reasonable endeavors”で合意するという交渉は,不十分な交渉であるといえます。
(2) KS Energy Servicesケース,CPC Groupケース,Rhodia International Holdingsケースは,”all reasonable endeavors”や”best endeavors”は,自身の商業利益を犠牲にすること,すなわち,金銭的な負担が伴う努力もすることを要求しうるものとしており,”all reasonable endeavors”と”best endeavors”により要求される義務の程度は決して低くはありませんので,安易に,これらの文言を契約書に盛り込むことも避けるべきといえます。
(3) もっとも,これらの文言は,事案によって個別に解釈されるものであって,契約違反になるかどうかは,結局,事案によるといわざるを得ません。実際に,KS Energy Servicesケースでも,その点についての高等法院と上訴院の判断が分かれたため,最終的な結論を異にしています。
(4) したがって,契約のドラフト,交渉においては,“best endeavors”,”all reasonable endeavors”,”reasonable endeavors”(これらの文言以外にも,例えば,”utmost endeavors”,”reasonable commercially endeavors”,”fair, honest and reasonable endeavors”などの文言も考えられます)などの抽象的な文言には極力頼ることなく,具体的にその義務の程度を契約書に明記するべきであるといえます。
[1] 判決全文は,http://www.lawnet.com.sg/legal/ln2/rss/judgment/15764.html?utm_source=rss%20subscription&utm_medium=rssを参照下さい。
[2] イギリスの判例がシンガポールにおいても拘束力を持ちうることは,別のコラムでご説明していますので,http://www.yglpc.com/wp/column/201402.htmlを参照下さい。
[3] “the party bound by them to take all those reasonable steps which a prudent and determined man, acting in the counterparty’s interests and anxious to procure the contractually-stipulated outcome within available time, would have taken”
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