コラム

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シンガポールの教育事情 ~シンガポールでは小学生も留年するって本当?~

【執筆者】大林 良寛

1 アジアの大学の台頭

昨今、アジアの大学の勢力には目を見張るものがありますが、その中でも、東大、香港大学(HKU)、シンガポール国立大学(NUS)の3つの大学が、世界大学ランキングのアジアの上位を占めています。昨年のランキングでは、NUSは26位、東大は23位と、その差はわずか3位で、近い将来には、東大がアジア首位を、NUSに引き渡すことになるのではないかとも言われています。成長が目覚ましいNUSとはどのような大学なのでしょうか、小学生でも留年することがあるというシンガポールの教育制度についても、あわせて考えてみたいと思います。

2 NUSの様子
(1)キャンパス

キャンパスは、新メインキャンパスのケントリッジキャンパスと、旧メインキャンパスのブキティマキャンパスに分かれており、現在、ブキティマキャンパスにはロースクールと公共政策があるのみとなっています。ケントリッジキャンパスは、甲子園球場112個分(私調べ)と広大であるため、歩いて行き来するのは不可能で、学生は無料の学内バスを利用しています。

(2)学生

学生の人種は多様性に富んでいます。学部生はシンガポール人が圧倒的多数派ですが、交換留学生、大学院生は、世界各国から来ており、インド人、中国人、韓国人、ベトナム人、マレーシア人、フィリピン人、インドネシア人、タイ人、香港人、パキスタン人、カナダ人、スイス人、ドイツ人、オランダ人、アメリカ人、コロンビア人、フランス人、アルゼンチン人、、、と数え上げたらきりがありません。このような、世界からの学生を受け入れるため、キャンパス内に5000人の学生が住むことができる寮が2つ存在します。

(3)ロースクールの授業の様子

私が通うLL.M.プログラムでは、1週間に5コマ(1コマ3時間)のクラスを取る必要があります。アメリカのロースクールでは、LL.M.の学生のみを対象としたクラスも多いようですが、NUSのLL.M.では、学部生、交換留学生と同じクラスを取ることがほとんどです。1日平均3時間のクラスであれば、楽そうというイメージかもしれませんが、実際は、毎回、日本語で読んでも理解するのに苦労するであろう難解な英語の文献を平均して100頁は読んでくることを要求され、さらに、エッセイやプレゼンもあるため、次のクラスの準備だけで忙殺される毎日となります。

(4)大学内での英語

シンガポール人の英語は、「シングリッシュ」と呼ばれ、かなり独特なアクセントがあり、慣れるまでは中国語にしか聞こえません(慣れても、なお、時折、中国語に聞こえます)。各国から来ているクラスメートも、各国独特のアクセントを持っているため、リスニングには相当苦労させられますが、同時に、英語はひとつではないのだということを、身をもって体感することができます。

3 教育大国シンガポール
(1)シンガポールの教育制度

シンガポールの教育制度は、初等教育、中等教育、高等教育に分かれています。そして、それぞれの段階で、全国統一の国家試験が存在し、その結果によってその後進めるコースが細かく分かれます。驚くべきことに、最初の統一試験は、初等教育終了時に受験する必要があるのですが、それに落第した場合には、中等教育に進めず、留年してしまいます(その率は2~3%)。つまり、若干12歳の小学生が留年をするということで、シンガポールの学生は、小学校の頃から、このような教育競争を戦い続けているのです。

(2)シンガポールの大学事情

シンガポールには私立大学は存在せず、NUS、南洋技術大学(NTU)、シンガポール経営大学(SMU)、シンガポール技術デザイン大学(2012年創立、SUTD)の4つのみです。シンガポール内で上位10%程度に入らなければ、これらの大学には入ることはできません。つまり、シンガポールでは、大学に入学するということ自体が、教育競争を勝ち抜いた勲章ということになります。そのせいか、学部生は、「NUS」というロゴの入ったTシャツを、街中でも好んで着ています。

(3)司法試験との関係

シンガポールの司法試験は、原則として、シンガポールの大学の法学部を出ていないと受験できません。上記4つの大学のうち、法学部があるのは、NUSとSMUだけですので、要は、この2つの大学の法学部に入らなければ、司法試験を受験できないということになります。したがって、必然的に、シンガポール人の弁護士は、NUSとSMUの卒業生ばかりということになります。

(4)兵役との関係

もうひとつ興味深いのが、兵役との関係です。シンガポールは高等教育修了後に、2年間、兵役があります。兵役の対象は男子学生のみですので、シンガポールでは、男女で、大学入学の時期に2年のずれがあるということになります。したがって、必然的に、シンガポール人の大学生は、2歳違いの恋を経験することが多いということになります。

4 まとめ

最近の日本の教育は、結果のみに基づくクラス分けに対して否定的ですが、シンガポールは、上記のとおりまったく別のアプローチを取っています。いずれのアプローチがよいのかは賛否両論があるところであると思いますが、アジアを牽引する国として、次世代を支える若者が、お互いに切磋琢磨していくべきであろうと感じています。