コラム

国際

中国法:中国消費者権益保護法の改正の概要

【執筆者】金 大燁

1.改正の背景

 中国の消費者保護法制の中核となる法律である消費者権益保護法(※1)が、1994年の施行以来約20年を経て、初めて改正されました(2013年10月25日公布、2014年3月15日施行予定。以下「改正法」といいます。)。
 旧消費者権益保護法が制定された当時に比べ、中国経済は驚異的に成長し、消費者の権利意識の向上、メディアによる広告の多様化、インターネット通販の普及など、消費者をとりまく環境は大きく変化しました。今回の改正は、これら消費者をとりまく環境の変化に対応して消費者の権益保護を拡大したものです。中国が生産拠点から販売市場にシフトしつつある現状において、中国に進出している日系企業(特にBtoCビジネスを行っている企業)には大きな影響がある改正と言えるでしょう。

2.改正の概要

今回の改正の中の主な事項は以下のとおりです。

(1)商品の品質責任に関するもの
イ.「三包責任」の拡大
 従来、一定の製品又はサービスのみが対象となっていた三包責任(返品、交換、修理の責任)の対象範囲が、全ての製品・サービスに拡大されました(改正法24条)これにより、従来、個別法令または契約で三包責任が定められていなかった場合でも、消費者権益保護法によって三包責任を追及できることとなります。
 具体的には、(ⅰ)受領日から7日以内は、品質問題のある製品を返品することができ、(ⅱ)受領日から7日経過後は、a)契約の法定解除の条件に合致する場合は返品が可能となり、b)契約の法定解除の条件に合致しない場合は、交換、修理の請求が可能となります(改正法24条1項)。
 また、返品、交換、修理に要する運送費等の費用は、事業者の負担となります(改正法24条2項)
ロ.リコール制度の義務付け
 これまで個別法令、及び権利侵害責任法の中で規定していたリコール等の事業者がとるべき危険防止措置につき、全ての商品及びサービスを対象として、消費者権益保護法に規定しました(改正法19条1項)また、リコールによって消費者が支出した費用は事業者の負担とされています(改正法19条2項)
ハ.耐用製品等に関する立証責任の転換
 自動車、コンピューター、テレビ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機などの耐用製品又は装飾内装などのサービスについて、製品又はサービスを受けてから6か月以内に瑕疵が発見された場合、瑕疵の有無につき事業者が立証責任を負うとされました(改正法23条)。全人大常務委員会法制工作委員会の説明によれば、本条に列挙された自動車等の製品は例示であり、その他の耐用製品にも本条の適用があるとしていますが、改正法は「耐用製品」の定義を設けておらず、どこまでの製品に本条が適用されるかは、将来の司法実務の動向を確認する必要があります。
(2)インターネット等の取引に関する規制の整備
イ.クーリングオフ制度の規定の新設
 インターネット、テレビ、電話、郵便等の方法を用いて商品を提供する事業者について、中国の法令上、初めてクーリング制度が規定されました(改正法25条)。この制度により、上記方法によって受領した商品については、受領から7日以内であれば、理由を説明することなく返品することが可能で、事業者は返品商品を受領した日から7日以内に消費者に対して商品価格を返還しなければなりません(改正法25条1項本文、同条3項)。
 本クーリング制度には2つの例外が定められています。1つ目の例外は、商品の種類による例外で、(ⅰ)消費者の依頼により作成された製品、(ⅱ)生鮮品、(ⅲ)オンラインでダウンロードしまたは消費者が開封した音楽・映像製品、コンピューターソフトウェア等のデジタル商品、(ⅳ)交付済みの新聞、定期刊行物の4種の商品については、クーリングオフの対象となりません(改正法25条1項但書)。2つ目の例外は、一般的例外で、商品の性質に基づき、消費者が購入時に返品できないことを確認した商品です(改正法25条2項)。
 また、上記の三包責任の際の返品と異なり、クーリングオフに基づく商品の返品に要する運送費は、消費者の負担とされています(改正法25条3項)。
 なお、同条3項は、消費者が返品する商品は完全(原文は「完好」でなければならないと定めていますが、この「完好」がどのような状態を指すのかは規定上明確ではなく、今後の司法実務を注視する必要があります。
ロ.通販事業者等の情報提供義務
 インターネット、テレビ、電話、郵便等の方法を用いて商品又はサービスを提供する事業者及び証券、保険、銀行等の金融サービスの事業者は、消費者に対し、経営場所、連絡方法、商品又はサービスの数量及び品質、価格又は費用、履行期限及び方法、安全注意事項及びリスク警告、アフターサービス、民事責任等の情報の提供が義務付けられました(改正法28条)。
ハ.プラットホーム事業者の責任
 インターネット上のショッピングモール等のプラットホーム(原文は「网络交易平台」)を提供している事業者に関して、(ⅰ)当該プラットホーム事業者が販売者又はサービス提供者の真実の名称、住所及び有効な連絡方法の情報を消費者に提供できない場合、(ⅱ)販売者又はサービス提供者が消費者の適法な権利権益を侵害することを知り又は知るべきであったにもかかわらず必要な措置を採らなかった場合に、当該プラットホーム事業者が消費者に直接責任を負うことが定められました(改正法44条)。
 これは、2010年に制定された「インターネット商品取引及びサービスの管理に関する暫定弁法」によりプラットホーム事業者に課せられていた事業者の真実情報を審査する義務を加重し、より消費者の保護を図ったものですが、どのような行為が「必要な措置」に該当するのかは規定上明らかではなく、なお不明確な点が残ります。
(3)個人情報の保護
イ.個人情報保護の一般的な規定の創設
 従来から、限定した範囲で個人情報を保護する規制等は存在しましたが、改正法は、消費者は商品の購入、使用し、サービスの提供を受ける際、法に従って個人情報の保護を受ける権利を有するという規定を設け、消費者の個人情報一般を保護の対象としました。(改正法14条)。
ロ.個人情報保護についての具体的義務規定
 また、個人情報保護について、(ⅰ)事業者が個人情報を収集、使用する際の規制及び収集した個人情報の秘密保持、漏洩禁止等に関する規制(改正法29条1項)、(ⅱ)収集した個人情報の漏えい、紛失等の防止措置に関する規制(改正法29条2項)などの具体的な義務規定を設けています。
ハ.違反に対する罰則
 個人情報に関する規定に違反した事業者には、違法所得の没収、違法所得の1倍以上10倍以下の罰金(違法所得がない場合は50万元以下の罰金)、情状によっては事業停止、営業許可取消等の罰則が設けられています(改正法56条9項)
(4)約款規制の強化・明確化
イ.注意喚起・説明義務の明確化
 事業者が経営活動の中で約款を使用する場合、消費者に対して、商品又はサービスの数量、品質、価格若しくは費用、履行期限及び方式、安全注意事項とリスク警告、アフターサービス、民事責任等の消費者が重大な利害を有する事項について、顕著な方法で示し、かつ、消費者の要求に従って説明しなければならないとしました(改正法26条1項)。
ロ.無効要件の明確化
 また、「消費者に不公正、不適当」な定めを無効としていた旧法の規定(旧法24条)の要件を、「消費者の権利を排除又は制限し、事業者の責任を軽減又は免除し、消費者の責任を加重する等の消費者に不公平、不合理な規定」により明確化しました(改正法26条2項、3項)。
 もっとも、1項で規定された注意喚起義務・説明義務と、3項の無効規定との関係は明らかではなく、1項の義務を怠ればその契約は無効になるのかなど、規定上明らかではない点も残されています。
(5)事業者の懲罰的損害賠償責任の強化
イ.詐欺行為に関する賠償責任の強化
 旧法では事業者の消費者に対する詐欺行為について、事業者は消費者が被った損害に、購入した商品またはサービスと同額の賠償を上乗せするとされていましたが(旧法49用)、改正法では、上乗せ額が、商品又はサービスの額の3倍(それが500人民元に満たない場合は500人民元)とされました。
ロ.欠陥の存在を知っていた場合
 また、製品又はサービスに欠陥が存在することを知りながら消費者に提供させて死亡させ、または健康を重大な損害を与えた場合に、損賠の2倍以下の懲罰的賠償責任を定めています(改正法55条2項)。
(6)公益訴訟

 多数の消費者の適法な権益を侵害する行為に対して、中国消費者協会及び省、自治区、直轄地が設置した消費者協会が人民法院に訴訟を提起することができると規定されました(改正法第47条)。民事訴訟法に規定された公益訴訟を規定したものですが、具体的内容はまだ定まっていないため、今後の立法動向を注視する必要があります。

3.まとめ

 以上のように、本改正は消費者保護法制に関する大きな改正であり、事業者が負うべき責任が明確化され、消費者保護がより強化され、消費者を対象とする事業者にとって大きな影響があるといえますが、上記のとおり、規定上明確ではない点も多く残されており、今後の実施細則の制定や実務運用に引き続き注視していく必要があります。