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YGLPCメールマガジン第11号(2012年8月30日発行)

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         弁護士法人淀屋橋・山上合同

 

        ★ YGLPCメールマガジン第11号 ★

 

        〜 グリー逆転敗訴知財高裁事件  

                       その他2記事〜

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            今号の目次

           

 1.知財判例速報

   グリー逆転敗訴知財高裁事件

   (携帯用インターネット・ゲームにおける著作物性)

 

 2.労働法最前線

   労働契約法が改正されました。

 

 3.契約交渉に役立つ独禁法の基礎知識Vol.4

   共同研究の成果物の販売先及び原材料の仕入先を制限してもよいで

  しょうか。

 

 過去のバックナンバー

 https://www.yglpc.com/wp/mailmag/index.html

 

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【知財判例速報】

グリー逆転敗訴知財高裁事件(携帯用インターネット・ゲームにおける著作物

性)

 

(1) 被告らが共同制作した携帯電話機用インターネット・ゲーム「釣りゲータ 

 ウン2」(被告作品)が、原告が制作した携帯電話機用インターネット・ゲ

 ーム「釣り★スタ」(原告作品)と、画面の映像及びその変化の態様等にお

 いて類似し、原告の著作権等を侵害するとして、原告が被告らに対し被告作

 品の配信差し止め及び損害賠償等を求めた事案において、本年2月23日に

 原告の請求を一部(「魚の引き寄せ画面」の著作権・著作者人格権侵害)認

 める地裁判決が出されましたが、同年8月8日、知財高裁はこれを取消し、

 原告側の全面敗訴を言い渡しました。

 

  このように地裁と知財高裁の判断が分かれた理由は、以下のとおり、「ア 

 イデアか表現か」という点及び「ありふれた表現か創作性のある表現か」と

 いう点についての評価の差にあると考えられます。

 

(2)  知財高裁は、原告作品と被告作品の

 

 ア 水中画像には、画面のほぼ中央にほぼ等間隔である三重の同心円が描か

   れている点

 

 イ 黒色の魚影及び釣り糸が描かれている点

 

 ウ 画像の背景は、水の色を含めて全体的に青色で下方に岩陰が描かれてい

   る点

 

 エ 釣り糸にかかった魚影は、水中全体を動き回るが背景の画像は静止して

   いる点

 

 などの共通点を指摘しながらも、以下の理由から、原告作品の著作物性を否

 定しました。

 

 (i)表現ではなくアイデアに過ぎないこと

 

    アの点は、従前の釣りゲームには「みられなかったものである」もの

   の、「弓道、射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用した

   もの」で、「釣りゲームに同心円を採用すること自体は、アイデアの範

   疇に属する」し、エの点も「このような手法で水中の様子を描くこと自

   体は、アイデア」に過ぎない。

 

 (ii)表現に創作性が認められないこと

 

    イ及びウの点は「他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の 

   水中の映像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない」し、ま

   た、実際の被告作品の具体的表現はいずれも原告作品のそれと異なるも

   のである。

 

(3) 他方、東京地裁は、原告作品の魚の引き寄せ画面は、上記ア及びエの点に 

 関して、「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」「魚にどのよう

 な動きをさせ」るか等「多数の選択の幅がある中で」、具体的な表現を採用

 している点を指摘して、「単なるアイデアにすぎないとはいえない」としま

 した。

 

  また、「様々な選択肢が考えられる」中で、「特に水中に三重の同心円を大

 きく描き、釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ、魚

 を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄

 せやすくすることによって表した点」は、「他の釣りゲームには全く見られ

 なかったもの」であるとしてその創作性を認定しています。

 

(4) 現在までの判例の流れに照らすと、地裁判決は、釣りゲームを表現する際

 に「表現の選択の幅」が相当程度あった点を重視していると考えられますが、

 知財高裁は、携帯電話機用ゲームという容量上の制約及び釣りゲーム(現実

 に行われている遊びをゲーム化したもので、かつ、短時間で遊ぶことを想定

 したもの)という「表現形式の制限」、並びに従前の釣りゲームや他のゲー

 ムと比較して個性が表れているか否か等を重視して結論を導いていると考

 えられます。

 

  著作権法第2条第1項第1号に「思想又は感情を創作的に表現したもの」

 と規定されるとおり、「著作物」といえるためには、まずアイデアではなく

 「表現」であることが必要で、さらに、当該表現は「創作的」なものでなけ

 ればなりません。

 

  従来から、この「アイデアか、表現か」「ありふれた表現か、創作性のあ 

 る表現か」という議論は、その線引きが曖昧であり、判断基準及び判断方法

 については事例の集積を待つほかないとされてきました。

 

  したがって、本判決は、携帯電話機用インターネット・ゲームという分野

 について新たな著作物性判断が下された点、及び著作物性判断の方法につい

 て、「作品の構成要素を分析し、それぞれについて表現といえるか否か、ま

 た表現上の創作性を有するか否かを検討することは、有益であり、かつ必要

 なことであって、その上で、作品全体又は侵害が主張されている部分全体に

 ついて表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断する

 ことは、正当な判断手法である」と裁判所が自ら明示した点で、非常に意義

 のある判決であるといえるでしょう。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 石原 遥平 

 TEL:  03-6267-1216

 E-mail: y-ishihara@yglpc.com

 

 

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【労働法最前線】労働契約法が改正されました

 

 8月10日、労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)が公

布されました。

 

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou
/roudoukijun/keiyaku/kaisei/

 

 この改正によって、有期労働契約に関し、以下の3つのルールが新たに定め

られました。

 

 1 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

 

 2 有期労働契約の更新等(「雇止め法理」の法定化)

 

 3 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

 

 このうち2については公布と同時に施行され、1、3については公布日から1

年以内に施行される予定です。いずれも重要な改正ですが、特に1は、有期労

働契約が5年を超えて反復更新された場合に、労働者の申込みによって無期労

働契約(期間の定めのない労働契約)に転換させる仕組みを導入した極めて重

大な改正で、実務へのインパクトも大きいものと思われます。

 今後の対応についてお悩みの場合には、どうぞご相談ください。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 吉田 豪

 TEL:  06-6202-3389

 E-mail: t-yoshida@yglpc.com

 

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【契約交渉に役立つ独禁法の基礎知識Vol.4】

共同研究の成果物の販売先及び原材料の仕入先を制限してもよいでしょうか。

 

[設例]

 

  完成品のメーカーである当社X社は、原料メーカーであるY社との間で、

新素材(以下「本件素材」といいます。)を共同開発し、本件素材の製造に係

る特許について共同出願契約を締結することになりました。

 

 当社は、Y社に対し、当社がY社からのみ本件素材を購入し、Y社は当社以

外の第三者には本件素材を販売できない旨の条件を提示したところ、Y社から、

独占禁止法に違反するのではないかとの指摘を受けました。どのように対処し

たらよいでしょうか。

 

[検討]

 

(1)  共同研究開発に伴い様々な取り決めがなされますが、当該取り決めが不

  公正な取引方法の禁止(独占禁止法19条)や、不当な取引制限の禁止(同

  法3条後段)に該当することのないよう検討をしておく必要があります。

 

(2)  公正取引委員会が公表する共同研究開発に関する独占禁止法上の指針

  (以下「共同研究開発ガイドライン」といいます。)は、

 

   ア 成果に基づく製品の販売先を制限することや、

 

   イ 成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限することは、

 

   不公正な取引方法に該当するおそれがあると分類しています。

   http://www.jftc.go.jp/dk/kyodokenkyu.html

 

(3)  もっとも、共同研究開発ガイドラインは、成果であるノウハウの秘密性

  を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、販売先を制限す   

  る場合や、成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は

  成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に

  限って、仕入先を制限することは、原則として不公正な取引方法に該当し

  ないとの見解を示していますので、まずは、こうした目的・内容での条件

  といえないか検討する必要があるでしょう。

 

(4)  また、こうした取り決めが、実際に、不公正な取引方法に該当するかど

  うかについて、共同研究開発ガイドラインは、参加者の市場における地位、

  参加者間の関係、市場の状況、制限が課される期間の長短等を総合的に勘

  案した結果、公正な競争を阻害するおそれがあると判断される場合には不

  公正な取引方法の問題となるとし、本件のような場合には、市場における

  有力な事業者によってこのような制限が課されることにより、競争者の取

  引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができな

  くなるおそれがある場合には、公正な競争が阻害されるおそれがあるとの

  見解を示しています。

 

(5)  そこで、例えば、X社及びY社がそれぞれ有力な事業者とはいえない場

  合(市場におけるシェアが10%未満であり、かつ、その順位が上位4位以

  下である下位事業者や新規参入者であることが一つの目安です)には、通

  常は不公正な取引方法の問題とはならないと考えることが可能です。

 

(6)  また、例えば、次のような措置を講じることにより、公正な競争が阻害

  されるおそれがあると認定されるリスクを低減させることが考えられます。

 

  ア 本件素材以外に影響が及ばないことの確認

 

    本件素材以外の素材に係る商品の取引は何ら制限を受けないことを 

   契約上明記して確認することにより、公正な競争が阻害されるおそれが

   認定されるリスクを低減させることが考えられます。

 

  イ 期間を制限すること

 

    本件のように競争関係にない事業者間の共同開発において、共同研究

   開発の成果を両社で配分する手段として、販売先の制限及び購入先の制

   限を行う場合には、制限が合理的な期間にとどまる限り不当性を有する

   ものではないと解することが可能です。

 

    そこで、例えば、制限の有効期間を、特許出願後3年とするなど、合

   理的な期間に限定することによってリスクを低減させることが考えられ

   ます。

 

  ウ 全面禁止とするのではなく事前承諾の形式とすること

 

    全面的に禁止とするのではなく、例えば、第三者から本件素材を購入

   し、又は第三者に本件素材を販売するには、事前に相手方からの承諾を

   得るものとし(相手方は不当に承諾を拒否できないこととする)、あわ

   せて相手方との間で合理的な実施料について協議の上合意するなどと

   いった定めにして、公正な競争を阻害するおそれが認定されるリスクを

   低減させることが考えられます。

 

<この記事に関するお問い合わせ先>

弁護士 森田 博          

 TEL: 06-6202-3542   

  E-mail: h-morita@yglpc.com

 

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・発行者:弁護士法人淀屋橋・山上合同

・発行日:2012年8月30日発行

 

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