弁護士法人 淀屋橋・山上合同

Q&A

労働契約法

Q9:
解雇についてはどのような制限がありますか?これまでの実務と変更点はありますか。
A9:

(1)労働契約法16条には,次のような規定があります。
 「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」
 これは,従来の労働基準法18条の2と全く同じ内容です。この規定は,平成16年の労働基準法改正で新設されたのですが,労働契約法の制定にあたって,本来,労働条件の最低基準を定める労働基準法に規定されるよりも,個別労使関係の安定を目的とする労働契約法に規定されるべきであるとして,移行されたものです。

(2)そもそも,雇用契約は,民法上一方の意思表示によっていつでも解約できることになっています(民法627条1項)。ところが,勤労による賃金収入は,労働者の生活保障,生存権に深く関わっていますので,長年の裁判例の積み重ねによって,使用者からの一方的な解雇が制限されてきました。
 昭和50年4月25日の日本食塩製造事件において,最高裁判所が「使用者の解雇権の行使も,それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には,権利の濫用として無効となる」と判示したことを契機に,今日ではいわゆる解雇権濫用法理という解雇ルールが実務上確立しています。つまり,(a)客観的合理性を欠く場合,又は、(b)社会通念上相当と認められない場合には、解雇は,権利の濫用として無効であるというものです。解雇が有効であることの立証責任は従来どおり使用者にあります。
 したがって,今回の法律制定によって,かかる判例法理が労働契約法16条で条文化されたに過ぎず,これまでの実務が変更されるわけではありません。

(3)ところで,同法16条の(a)客観的合理性と(b)社会通念上相当性という要件は,甚だ抽象的で,それだけでは,どのような場合に解雇が無効となるのか,使用者にも労働者にも判然としません。かかる意味で,条項としては予測可能性が低く,規範として も弱いといわざるを得ません。
 この点について,使用者からの普通解雇の効力については,これまでのいくつもの裁判例の集積によって,使用者には相当厳しい要件として確立していると考えられています。
 誤解を恐れずにいえば,長期の無断欠勤や業務上横領等といった明確な債務不履行はともかく,能力不足や協調性の欠如など,もともと債務の不完全履行に関する類型の主観的な要素を含む解雇事由に関しては,これらの事由に加え、指導しても改善やその意欲に乏しいことが,資料や証言によって証明(厳格な事実の証明)できないと,容易に解雇の有効は認められないといえるでしょう。
 また,仮に解雇が実体として有効である場合でも,解雇手続については,30日前の予告か,それに代わる30日分の予告手当(平均賃金)が必要です。この点についても,労働契約法の制定によって特段変更ありません(労働基準法20条1項但書)。

(4)なお,労働契約法の制定過程においては,解雇権濫用法理以外にも,いわゆる整理解雇(経営上の理由による解雇)の要件についても法制化する動きがありましたが,最高裁判所の判例がないことなどを理由に見送られました。
 また,解雇に関する金銭的解決制度の導入についても,労使双方から反対がされ,結局,法律化されていません。しかしながら,実務上は解雇に関する紛争は大半が金銭的解決によっていますので,何らかの仕組みづくりが必要であると考えられます。