「最近ちょっと忘れっぽくなったかなあ」縁側で足の爪を切りながら、Aは、ふと、独り言を言った。Aは、商社を定年退職してから、しばらく系列会社で嘱託契約で働いていたが、現在はそれもお役御免で退職している。家族は、現在はいない。寡黙だった妻は4年前に他界した。娘二人は既にめでたく結婚しているが、遠方に嫁いでいる。それほど資産は多くはないが、持ち家も持っているし、退職金ももらった。一人は少し淋しいが、のんびりとした老後は過ごせるだろう。Aはそう思っていた。「何とか助けていただけないでしょうか。弟の会社が今月末の資金繰りに詰まってしまって。でも、500万円あったら何とか乗り切れそうなんです。不渡りを出してしまいそうなんです」Aは、最近顔見知りになったB子から懇願された。B子とは、退職後行き始めた、体操教室で知り合った。妙齢の美人である。年はひとまわりほど離れているものの、Aは好感を持っていた。あまりない経験だが、なぜか心が浮ついていた。そんなときにこんな深刻な話を相談されるなんて・・・。結論として、Aは貯金を一部解約して、300万円を彼女のために用立てた。Aとしてはちょっとした冒険であった。ひょっとして返ってこないかもと、さすがに心配はした。ただ、300万円はまもなくしてB子から返済された。彼女は非常に感謝した態度で礼を言い、今後、お金のことはないと思うが、自分も独り者なのでこれから何かと相談に乗ってほしいと言う。Aは悪い気はしなかった。・・・・・・・・・・・・「ちょろいもんよ」B子は、男とコーヒーを飲みながら、嘯いた。「最初に出会ったときから、ちらちら私を見ていたわ。300万円をきっちり返して、すっかり私を信用しているし、この前も100万円貸してくれたわ。今なら100万円単位であれば、すぐ貸してくれる感じだし。財テクの話も信用して、もちかけたら、今度、それもお願いしたいって」・・・・・・・・・・・・