破産した当時は、生きているのがつらかったけれど、破産して本当によかった。自分のやりたいことが見つかり、やりたい仕事ができ、生き甲斐を発見しました。とSさんはY弁護士に話した。春 裁判所からY先生に連絡があり、Y弁護士は、Sさん夫婦とSさんが代表取締役を務めていた会社の破産管財人に選任された。裁判所で破産宣告を受けた日、SさんはY弁護士に初めて会った。この日、Sさんの自宅や会社の現況調査に行ったが、Sさん夫婦はY弁護士の質問に淡々と答えるものの、魂は抜け殻のようであった。Sさん夫婦は真面目な働き者であった。お人好しで、信用第一をモットーに、生まれ育った街で、両親のお世話をしながら朝から晩まで働き、こつこつと会社を大きくしてきた。3人の子供も独立し、ようやく骨休めができると思った矢先に事件は起きた。海外を約20年間も任せてきた従業員Aさんが、会社の顧客リストを持ち出し、退職したのだ。Aさんは、Sさんの会社での経験を生かし、すぐに同じ商売を始め、得意先を片端から奪っていったのである。Sさんの会社は売上が激減。その噂はたちまち広がり、取引キャンセルの連続に資金繰りが追いつかず、手形が不渡りになりあえなく倒産。残ったのは借金のみ。Sさん夫婦は、それでも何とか返済したい、取引相手に顔向けできないと、私財をなげうち、親戚中からお金を借りまわって借金の返済をしていたが、商売に行き詰まり、従業員の退職金や解雇予告手当を全て支払った後、破産宣告の申立をした。そのときSさん夫婦には、生活費すら残っていなかった。親孝行な娘夫婦が、生活の面倒をみることになったと、Sさんは、力無く話した。