Yさんは大手の不動産会社に勤め、10年余のキャリアを積んできたが、そこで得た宅地建物取引に関する豊富な知識、経験と多くの人脈を元手に、自分で事業をやってみたいと思うようになった。いわゆる脱サラである。 宅地建物取引業、いわゆる宅建業を営むためには、宅地建物取引業法に基づく免許が必要なことは、Yさんはよく知っていた。宅建業免許は国土交通大臣の免許と都道府県知事の免許の2つに区分されている。宅建業を営む事務所を一つの都道府県内にのみ置く場合は知事免許だが、二以上の都道府県に跨って置く場合は大臣免許が必要というわけだ。Yさんは、いきなり他府県にまで事務所を置く必要はないと考え、とりあえず知事免許から入って行くことにした。 免許申請は、個人が申請する場合と法人が申請する場合とでは、少し違ってくる。Yさんはこれまでの経験から、この事業は顧客の信用が何よりも重要であり、そのためには会社組織にした方がいいと考え、法人免許をとることにした。奥さんと娘さんを非常勤取締役に、友人を非常勤監査役に据え、自らは常勤の代表取締役(代表者)という布陣で株式会社設立の手続きを進める一方、市内中心部の一等地に気に入った事務所を見つけ、賃貸借契約を結んだ。ま新しい事務所の回転椅子に腰を下ろしてみて、何とかここまで来たかと感慨に耽りながらも、事業主になったという実感はまだ沸いてこなかった。 難関は宅建業免許の取得である。Yさんは知人からの紹介を受けて緊張の面持ちで当事務所の門を叩き、免許申請手続きをA行政書士に依頼した。宅建業の免許申請をするためには事務所ごとに一定数の専任の取引主任者(専取)をおかなければならない。Yさんは不動産会社に勤めていた早い時期に取引主任者の試験に合格し登録していた。当面は、事務所は1か所で常勤の従事者もYさんと事務員1名だけであるから、専取は1名で十分である。Yさん自身が代表者兼専取という配役で申請することになった。