コラム

国際

雇用創出オムニバス法(3)- 会社法の改正

【執筆者】大川 恒星

1 はじめに

 本コラムでは、会社法(株式会社に関する法律2007年40号)の改正を取り上げる。雇用創出オムニバス法(109条)によって、会社法の一部が改正された。この改正は、零細・小規模企業の設立の促進に向けられたものであり、(零細・小規模企業には当たらない)日本企業のインドネシア投資に与える影響は小さいと考えられる。むしろ、日本企業のインドネシア投資の障壁の一つであった、最低投資総額と引受・払込資本金額の最低額に関する規制は改正されていないため、この点では、外資規制の緩和は進まなかったといえる。

2 会社法の改正内容

 会社法の改正内容は、主に、授権資本金額(株式会社が発行することのできる株式総数の金額)の最低金額の撤廃と、零細・小規模会社における一人会社の容認と設立手続・運営方法の簡素化である。

(1)授権資本金額の最低金額の撤廃

 改正前の会社法(以下「旧会社法」という。)では、授権資本金額の最低金額は5,000万ルピアとされていた(旧会社法32条1項)。今回の改正によって、この規定は削除されて、代わりに、会社法32条2項は、授権資本金額は、株式会社を設立する者が任意に決定できる旨を定める。もっとも、政令2016年29号がこの旨を定めていたことから、今回の改正の真新しい点としては、根拠規定のレベルが政令から法律へと繰り上がった点であると考えられる。
 今回の改正によって、現時点では、株式会社は、5,000万ルピア未満の授権資本金額でも設立可能になったように考えられる。もっとも、授権資本金額のうち25%は、会社設立時に引受・払込が行われなければならない旨の規定(会社法33条1項)については、今回の改正によって変更されておらず、会社法32条3項には、株式会社の授権資本の詳細については、政令で定められる旨が規定されていることから(雇用創出オムニバス法185条a.によれば、施行日である2020年11月2日から3か月以内に制定される。)、この政令の制定を待たなければならない。
 なお、以上の会社法の改正内容は、外資企業1には適用されない。外資企業には、特別のルールが適用される。すなわち、外資企業は、土地・建物を除く最低投資総額は100億ルピア超、引受・払込資本金額の最低額は25億ルピア、各株主の最低出資金額は1,000万ルピアといった外資規制に服さなければならない(2018年投資調整庁長官規則6号6条3項)。

(2)零細・小規模会社における一人会社の容認と設立手続・運営方法の簡素化

 株式会社の設立条件として、株主は2名以上いなければならない(会社法7条1項)。今回の改正によって、零細・小規模企業には、この条件は適用されないことになった(同法7条7項e.)
 零細・小規模企業の定義についても、雇用創出オムニバス法(87条)が零細・中小企業に関する法律2008年20号の一部を改正することによって、変更されている(87条)。すなわち、従前は、零細・中小企業は、純資産又は年商の金額によってそれぞれ分類されていたが、今回の改正によって、新たな指標として、業種毎に、純資産、年商、投資額、労働者数、環境にやさしい技術の導入といった複数の指標が用いられることになった(零細・中小企業に関する法律2008年20号6条1項)。ただし、零細・中小企業の判断基準の詳細については、前記と同様に、政令の制定を待たなければならない(同法6条2項)。
 また、今回の改正によって、153条と154条の間に、零細・小規模企業に関する153条AからJまでの規定が新設された。これによって、零細・小規模会社における設立手続・運営方法が簡素化される。

3 最後に

 このように、雇用創出オムニバス法によって、会社法の一部が改正された。この改正は、零細・小規模企業の設立の促進に向けられたものであり、(零細・小規模企業には当たらない)日本企業のインドネシア投資に与える影響は小さいと考えられる。もっとも、その詳細については、政令の制定を待つ必要があり、引き続き、今後の状況を注視していきたい。

※ 本コラムは、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに対する法的助言を想定したものではありません。個別具体的な案件への対応等につきましては、必要に応じて弁護士等への相談をご検討ください。また、筆者は、インドネシア法を専門に取り扱う弁護士資格を有するものではありませんので、個別具体的なケースへの対応は、インドネシア現地事務所と協同させていただく場合がございます。なお、本コラムに記載された見解は執筆者個人の見解であり、所属事務所の見解ではありません。

1 インドネシアでは、PMA企業と言われる。投資法1条8項によれば、外国企業が1株でも株式を保有すれば、PMA企業として外資規制の対象となる。投資法5条2項によれば、PMA企業は、別途法律の定めがない限り、株式会社の形態でなければならない。