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雇用創出オムニバス法(2)- 投資法の改正

【執筆者】大川 恒星

1 はじめに

 前回のコラムでは、雇用創出オムニバス法の成立過程とその概要について取り上げた。本コラムでは、投資法(投資に関する法律2007年25号)の改正を取り上げる。雇用創出オムニバス法(77条)によって、投資法の一部が改正された。この改正は、日本企業のインドネシア投資にも大きな影響を与える。

2 投資法とは

 投資法とは、インドネシアの国内・外国投資を規律する基本法である(全40条で構成される。)。外国投資については、投資金額の多寡にかかわらず、投資法による外資規制を受ける(投資法1条8項)。この大枠は、雇用創出オムニバス法による投資法の改正後も異ならない。

3 投資法の改正内容

 投資法の全40条のうち、雇用創出オムニバス法によって改正されたのは、2条、12条、13条、18条、25条である。
 改正内容を大きく二つに分けると、改正前の投資禁止業種・投資制限業種に関するもの(12条)と、零細・中小企業の保護に関するもの(13条)である。
 日本企業のインドネシア投資を含む外国投資との関係では、前者が特に重要であるため、以下で取り上げる。

(1)旧投資法の内容- 投資禁止業種・投資制限業種に関して

 改正前の投資法(以下「旧投資法」という。)では、「投資禁止業種又は投資制限業種を除き、全ての事業分野への投資が開放されている」と規定されていた(旧投資法12条1項)。また、旧投資法12条3乃至5項は、(下位法である)大統領令によって、これらの禁止・制限業種のリスト等を定めると規定していた。そこで、大統領令として、「投資ネガティブリスト」が定められた(最新のものは大統領令2016年44号であり、JETROのホームページ1にその和訳が掲載されている。)。
 投資禁止業種は、旧投資法12条2項が定める「兵器、爆薬、爆発物、戦争用機材の生産」に加えて、投資ネガティブリスト・添付資料1が定める20業種であった。
 また、投資制限業種は、零細・中小企業と協同組合のために留保されている又は零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種(同リスト・添付資料2)と、外資比率等の特定の条件付きで開放されている業種(同リスト・添付資料3)であった。

(2)投資禁止業種の「減少」

 今回の改正によって、投資法12条1項は、「投資禁止業種と、中央政府のみが行うことができる活動を除き、全ての事業分野への投資が開放されなければならない」と規定する。
 旧投資法12条1項の規定文言と比較すると、「投資制限業種」が無くなって、「中央政府のみが行うことができる活動」が新設されたことが分かる。
 投資禁止業種については、投資法12条2項に、以下の6つの業種が規定されている。

  • カテゴリーIの麻薬の栽培と製造
  • あらゆる形態のギャンブル・カジノ活動
  • 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約(CITES)の付録Iに記載されている魚類の捕獲
  • サンゴの利用・採取【要約】
  • 化学兵器製造業
  • 工業用化学剤産業とオゾン層破壊物質産業

 つまり、今回の改正によって、投資禁止業種の数が大幅に減少した。
 ただし、中央政府のみが行うことができる活動は、実質的には投資禁止業種に当たるものである。雇用創出オムニバス法の77条の注釈によれば、中央政府のみが行うことができる活動とは、公共事業の性質を持つ活動又は防衛・安全保障の枠組みの中で行われる活動であり、主要な武器システム、政府系博物館、歴史・古代遺跡、航空航法の運用、船舶の電気通信・航法の補助が含まれる、とのことである。
 また、前記の注釈には、投資活動の実施は、天然資源の保護、協同組合や零細・中小企業の保護・発展、生産と流通の監督、技術力の向上、国内資本の参加、政府が指定する事業体との協同を含む国益に基づいて行われなければならず、このような国益には、政府が定める一定の取り決めと要件とともに、健康を脅かす可能性のある事業活動(麻薬、アルコールを含む酒類等)の保護、農家、漁業者、魚・塩類農家、零細・小規模企業の強化が含まれる一方で、投資環境の改善の側面にも注意を払わなければならない旨が記載されている。
 従って、現時点では、前記の6つの業種に該当しないという理由だけでは、アルコールを含有する酒類産業等への投資が開放されたとは断定できない状況である。投資法12条3項には、詳細については大統領令で定められる旨が規定されていることから(雇用創出オムニバス法185条a.によれば、制定・施行日である2020年11月2日から3か月以内に制定される。)、この大統領令の制定を待たなければならない。

(3)「投資プライオリティリスト」の導入

 禁止・制限業種のリストではなく、新たに、「投資プライオリティリスト」が導入される。雇用創出オムニバス法77条の注釈には、投資要件は、大統領令に基づいて規定された投資プライオリティリストの形式でリストアップされた、政府が優先する業種を対象とするものでなければならないと記載されている。そして、具体的には、以下のとおりである、という。

  • 財政的インセンティブが提供される優先業種
  • 許認可取得の容易化、投資場所、インフラ・エネルギーの提供等の形で、非財政的インセンティブが提供される業種
  • 零細・中小企業と協同組合のために留保されている又は零細・中小企業と協同組合とのパートナーシップが条件付けられている業種(株主としてのパートナーシップを含まない)
  • 特定の条件付きで開放されている業種

 投資プライオリティリストの詳細については、前記と同様に、大統領令の制定を待たなければならない。

(4)適用時期

 前記の大統領令が制定されるまでは、従前の投資ネガティブリストによる運用が続くことになる。

4 補足- 2020年版KBLIの発表

 (旧投資法の)投資ネガティブリストは、KBLI(インドネシア標準産業分類/インドネシア中央統計局が業種毎に5桁の番号を割り振ったもの)に基づき定められていた。そこで、インドネシアへの投資を検討する際には、まず、投資を検討している業種のKBLIを確認した上で、投資ネガティブリストに照らして、禁止・制限業種の該当性を判断することになる。
 2020年9月24日、インドネシア中央統制局は、従前の2017年度版KBLIに代わるものとして、 2020年度版KBLIを発表した。2020年版KBLIでは、時代の変化に応じて、200を超える新しい業種が設けられることになったことから、投資対象業種の拡大が期待される。
 一方で、2020年度版KBLIの適用時期、2017年版KBLIで設立された既存の会社の対応方法、OSSシステム上の運用方法といった実務上の問題が生じることとなった。前記の投資プライオリティリストや、(雇用創出オムニバス法で新たに導入された)リスクベースの許認可の導入時期とともに(いずれについても、OSSシステムのもと、KBLIを用いて運用されると思われる。)、今後の状況を注視する必要がある。

5 最後に

 このように、雇用創出オムニバス法によって、インドネシア投資の枠組みが大きく変更される。その詳細については、大統領令の制定を待つ必要がある。日本企業のインドネシア投資に与える影響も大きいことから、引き続き、今後の状況を注視していきたい。

※ 本コラムは、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに対する法的助言を想定したものではありません。個別具体的な案件への対応等につきましては、必要に応じて弁護士等への相談をご検討ください。また、筆者は、インドネシア法を専門に取り扱う弁護士資格を有するものではありませんので、個別具体的なケースへの対応は、インドネシア現地事務所と協同させていただく場合がございます。なお、本コラムに記載された見解は執筆者個人の見解であり、所属事務所の見解ではありません。