弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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仮想通貨(暗号資産)等の強制執行

【執筆者】水井 大

 仮想通貨等の強制執行については、これまで種々の議論がなされてきた。すなわち、仮想通貨の保管場所ごとに場面を整理し、債務者自身のウォレットで仮想通貨を保管している場合、及び、債務者が仮想通貨交換業者に仮想通貨を預託し保管している場合とで、それぞれ整理した上で議論されている。本コラムは、今一度、その議論状況を整理するものである。
 なお、第198回国会において、平成31年3月15日に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」(https://www.fsa.go.jp/common/diet/198/index.html)が提出されており、かかる法案に従えば、仮想通貨の名称は、正式に暗号資産に変更される見込みである。もっとも、本コラムでは、現時点で通用している「仮想通貨」に名称を統一して論じている。

1.債務者自身のウォレットで仮想通貨を保持している場合

 いわゆる「タンス仮想通貨」として、債務者が、自身のPCやスマートフォン上のソフトウェアウォレットで保管している場合や、専用のUSBデバイスなどの媒体によるハードウェアウォレットで保管している場合がある。このような場合において、仮想通貨そのものに対し強制執行することの可否について、以下では念頭に置いている。
 なお、仮想通貨のウォレットの種類については「仮想通貨交換業等に関する研究会」第9回における説明資料でも整理されている
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181112.html)。また、近時では「仮想通貨ウォレットの実態調査」と題する調査結果も公表されているようであり非常に参考になる(https://vcgtf.github.io/papers/DP2019-01.pdf)。

1)執行方法
 ところで、民事執行法は、不動産、動産、債権その他財産権、電子記録債権等の財産の種類によって、それぞれの執行方法を規定している。この点、仮想通貨は、その資金決済法上の定義によると「電子機器その他の物に電子的方法により記録されている財産的価値」を有しているものと整理できる。したがって、この場合、「その他財産権」に対する強制執行に分類され、そうすると、債権執行の例によることになる(民事執行法167条)。
 そして、この場合、仮想通貨交換業者のような第三債務者がいない。したがって、執行債務者である仮想通貨保有者に対してのみ、差押命令を送達して、その時点で差押の効力が生じることになる(民事執行法167条3項)。

2)差押対象の特定
 仮想通貨の種別を明らかにすれば足りると考えられる。
 なお、平成31年1月17日時点において、資金決済法上の仮想通貨の定義(資金決済法2条5項1号、同2号)に該当するものとして扱われている仮想通貨は、下表のとおりである。
 各仮想通貨に関する、基礎情報、取引単位、付加価値、発行状況、用いている技術、内在リスク、流通状況等の詳細については、一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)の「取扱仮想通貨及び仮想通貨概要説明書」から閲覧することができる。下表は、同説明書記載の情報からピップアップして、筆者が便宜上取り纏めたものである(https://jvcea.or.jp/about/document/)。
 


3)換価方法
 民事執行法上、「取立が困難な場合であるとき」に該当するから、譲渡命令又は売却命令によることになると考えられる。ただし、譲渡命令が発せられても、執行債務者たる仮想通貨保有者が、秘密鍵を差押債権者又は執行機関に教えるといった協力がないと、実際に差押債権者に帰属させる形で譲渡できない。また、売却命令が発せられて、執行官が売却しようとしても、同様の問題が生じてしまう。
 そうすると、結局、間接強制の方法によらざるを得ないと考えられ、執行の実効性としては、非常に乏しいと評価せざるを得ない。また、実例報告としても、筆者が見聞きした範囲内ではいまだ接したことが無い。

2.債務者が仮想通貨交換業者に仮想通貨を預託し仮想通貨交換業者のウォレットで保管している場合

他方で、債務者が、自身のウォレットではなく、仮想通貨交換業者に仮想通貨を預託し保管していることがある。この場合の、仮想通貨交換業者への請求権に対する強制執行の可否については以下の通りである。なお、資金決済法上の仮想通貨交換業者は金融庁のHPから閲覧でき平成31年1月31日現在17社存在している(https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyo.html)。

1)執行方法
 利用者は、仮想通貨交換業者に対して、その保管している仮想通貨等(金銭も含む。)に関し、売買、交換、両替、寄託等に関する契約に基づく仮想通貨の返還請求権に準じた債権を有していると理解されている。そのため、債権執行の例によることになる。
 他方で、利用者の交換業者に対する所有権に基づく物権的返還請求権は否定されている(東京地判H27.8.5マウントゴックス事件)ため、物権的に構成し同債権を被差押対象債権とすることは難しいと考えられる。

2)差押対象の特定
 差押対象は、「債務者と第三債務者との間の仮想通貨等(金銭も含む。)に関する、売買、交換、両替、寄託等に関する契約に基づく仮想通貨等の返還請求権」と特定することが考えられ、基本的に、この点は異論を見ない。また、必要に応じて、より具体的な差押対象を設定することが考えられる。

3)換価方法・仮想通貨交換業者の対応
 仮想通貨交換業者が利用者にかかる債権差押を受けた場合に、どのように対応するかは、資金決済法、ガイドライン(「第三分冊:金融会社関係」のうち「16.仮想通貨交換業者関係」https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/index.html)のいずれにおいても、何ら定めが設けられていない。そのため、仮想通貨交換業者の対応は、各社の利用規約等の定め等に依拠しつつ、個々別々に対応せざるを得ない。
 ただ、基本的には、国内の仮想通貨交換業者の利用規約上、利用者に債権差押命令があった場合には、サービスの停止や登録取消の対応をとると規定しているのが大多数であって、概ね、民事執行法上の弁済禁止効に沿う対応を行っている。そして、仮想通貨交換業者は、上記のように一旦サービスの停止を行った後、裁判所の命令に従って債権者に対して法定通貨に換算して支払っているものと思われる。
 また、実例報告としても、平成31年3月18日には、埼玉県警が、兵庫県警に次いで全国的には2例目として、駐車違反金の滞納者において仮想通貨交換業者に預けていた仮想通貨を差し押さえた事例を発表しており、実務上も浸透して用いられていることがわかる(https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/190318/cpd1903181601004-n1.htm)。もとより、それ以外の通常の民事執行の場面でも、普遍的に用いられている方法であって、今後の活用も見込まれる方法である。

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