弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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改正相続法~遺産分割制度の見直し~

【執筆者】水井 大

1.はじめに

 今般、第196回国会において法案提出され、平成30年7月6日付けで改正相続法が成立しました。その一内容として遺産分割制度に関する見直しが含まれており、その具体的な内容として、①持ち戻し免除の意思表示の推定規定の創設、②仮払い制度の創設・要件明確化、③一部分割の規律の明文化、④遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲に関する規律の創設があります。本コラムでは、遺産分割制度に関する見直しに焦点を当てて、その概略について説明を加えます。

2.持戻し免除の意思表示の推定

 現行民法903条に、以下の条項が加えられます。すなわち、改正法903条4項として、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について、遺贈又は贈与したときは、持戻し免除の意思表示をしたものと推定するとの規定が創設されることになりました。これによって、遺贈または贈与が特別受益にあたる場合でも、原則として遺産分割の対象財産から除かれることになります。本項の趣旨は、本項に定めるような場合の被相続人の合理的な意思としては、もう一方の配偶者のそれまでの長年の貢献に報いるとともに、老後の生活保障を手厚くする趣旨での遺贈又は贈与であることが多いことに鑑み、持戻し免除の意思を法律上推定することとされたものです。

3.仮払い制度等の創設

(1)まず、現行の家事事件手続法200条に、以下の条項を付け加え、家事事件手続法の保全処分の要件が設定されることになります。
 すなわち、改正家事事件手続法200条3項として、「家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を、当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申し立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りではない。」という規定が創設されることになりました。
 かかる仮払い制度は、最大決平成28年12月19日(民集70巻8号2121頁)において、従前の判例を変更し、預貯金債権も遺産分割の対象財産に含まれることとされ、また、預貯金債権については、原則として遺産分割が終了するまでの間は、共同相続人の同意がなければその払戻しを受けることができないとの判断が示されたことを受け、それにより相続人の資金需要が不足したときの不都合を解消するための方策として、設けられたものです。

(2)また、以上のように家庭裁判所の判断を経るのではなく、さらに迅速に少額な資金需要に対応するため、以上の方策とは別途、現行の民法909条に以下の条項も付け加えられることになりました。
 すなわち、改正民法909条の2として、「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始の時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」という規定が創設されることになりました。
 もっとも、金融機関ごとに払戻しに対応してもらえる上限額は、今後、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の必要の額その他の事情を勘案して法務省令で定める額となる予定とされており、妥当な金額が設定されることが望まれます。この点、平成29年7月18日付けの追加試案では、当該上限額は金融機関ごとに100万円を限度とする旨提案がなされていましたので、同金額が一定の目安になると思われます。
 また、これまで、法制審議会においては、主として改正家事事件手続法200条3項所定の仮払い制度が議論されてきた経緯がありましたが、改正民法909条の2の創設によって、各相続人が、単独で預貯金債権を行使することが可能な範囲が明確になり、簡易迅速な処理が可能となった結果、改正家事事件手続法200条3項所定の仮払い制度よりも、使い勝手のよい制度として機能することが予想され、非常に大きな実務的影響を有するものといえます。

4.一部分割に関する規律の明文化

 現行民法907条では、第1項が「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で遺産の分割をすることができる。」と規定し、また、第2項は「共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。」と規定しており、相続財産の一部の分割協議、調停、又は審判が許容されるか、明文上は必ずしも判然としていませんでした。
 もっとも、これまでの実務上、一部分割の合理性や必要性が肯定される等の事情があれば、一部分割を許容していたことを受けて、上記の条文中に真正面から「全部又は一部の」の分割を可能とする旨明示されることになりました。

5.遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲に関する規律の創設

 現行民法906条に、以下の条項が付け加えられます。すなわち、改正法906条の2にて、第1項として、「遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でもあっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」という規定、および、同条第2項として、「前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。」という規定が創設されます。
 かかる規定の趣旨は、従前の判例法理によれば、特定の相続人が遺産分割前に相続財産を処分した場合、処分された財産は相続財産から逸失し、当該相続人は持分に応じた代金債権を取得するだけであって、当該代償財産は原則として遺産分割審判の対象にならない(最二小判昭和52年9月19日集民121号247頁)とされていた一方、当該代償財産についても、一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象財産に含めるという共同相続人全員の合意があるなどの特別の事情がある場合には遺産分割審判の対象とすることができる(最一小判昭和54年2月22日集民126号129頁)とされており、かかる判例法理を明文化することで、共同相続人間において円滑に公平な合意を成立しやすくする狙いから設けられたものです。

以上

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