弁護士法人 淀屋橋・山上合同

コラム

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債権法改正が金融実務に与える影響

【執筆者】水井 大

1 はじめに

 民法改正法案は、平成29年6月2日に公布され(平成29年法律第44号及び45号。以下「新法」といいます。)、新法の施行は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされ(制定附則1条)、しばらくの間、施行日は確定していませんでした。しかし、ようやく、平成29年12月20日、正式に「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(平成29年政令309号)が公布され、施行日は平成32年4月1日に確定しました。
 本コラムは、新法によって金融実務に与える影響のうち特に重要なものに絞って解説を加えるものですが、各金融機関においては、平成32年4月1日までの残りわずかの期間内に、新法の趣旨を踏まえ、対応を万全に期する必要があります。

2 保証人の保護強化に関する規定の創設
(1)債権者から保証人に対する情報提供義務

ア 旧法では、金融機関等の債権者が把握している主債務者の履行状況に関する情報を、保証人に提供する義務を債権者に課す規定は見られませんでした。しかし、新法458条の2では、金融機関等の債権者は、法人・個人問わず、委託を受けた保証人から請求があれば、主たる債務の状況について情報提供しなければならないという規定が設けられました。これは、後述の(2)(3)でみるような事業に係る債務に関する特則とは異なり、主債務者の委託を受けた者を保証人とするすべての保証契約に適用される規律です。現在でも、多くの金融機関では、問い合わせがあれば、情報提供に応じていると思われ、その一方で守秘義務との兼ね合いで判断に迷う場合もありましたが、上記の規定によって、今後の金融機関等の債権者の対応が明確になりました。
 なお、これを怠った場合の効果は、明文化されていませんが、金融機関等の債権者が、情報提供を怠った結果、保証人が損害を被った場合には、債務不履行一般の法理に従って、保証人は、債権者に対して生じた損害の賠償を請求することができるものと考えられます。

イ また、新法458条の3は、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合には、債権者が2カ月以内に、保証人(法人を除く。)に通知をしなければならず、通知を怠ったときは、通知する日までに生じた遅延損害金を保証人に請求することができない、と規定しました。実務上、主たる債務者が期限の利益を喪失して、その数年後に保証人に対して保証履行請求したところ、遅延損害金を巡ってトラブルになったりするケースがままみられますが、本条によって、このような事態が改善されることが期待されます。

(2)主たる債務者から保証人予定者に対する情報提供義務

 また、新法465条の10は、主たる債務者が、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、財産及び収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無・その額、履行状況、担保の状況とその内容について、保証人予定者(法人を除く。)に情報提供しなければならず、仮に、主たる債務者が情報を提供せず、又は事実と異なる説明をしたことにより保証人が誤解して保証契約を締結した場合で、かつ、債権者が主たる債務者の情報提供義務違反があったことについて悪意又は過失があった場合には、保証人は保証契約を取り消すことができると規定しています。
 本条によって、直接に義務を負うのは主たる債務者であり、また、もとより事業に係る債務に局面が限定されるものでありますが、銀行取引における今後の課題としては、債権者たる金融機関等が有過失と言われないよう何をすべきか、という点があります。この点は、法制審議会民法部会においても若干の議論がなされましたが、明確な結論は得られていません。結局、金融機関等の債権者が、保証人予定者から、「新法465条の10第1項に規定している内容について主たる債務者から説明を受けた」という趣旨の表明保証を得ておくことが一案ではありますが、たとえば、保証人予定者が主たる債務者から受けた説明が明らかに虚偽であるとわかる状況等において、果たしてかかる対応のみで、債権者たる金融機関等が善意無過失であるといってよいかは議論の余地があると思われます。この点は、今後の議論の蓄積が待たれるところです。

(3)公証人に対する口授手続

ア さらに進んで、新法465条の6から465条の9では、いわゆる経営者以外の第三者が保証人になろうとする場合に、事業のために負担した貸金等債務を主債務とする通常の保証契約、または主債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約等については、後述する一定の例外を除き、保証契約締結日前の1ヶ月以内に、公的機関である公証人が、保証人になろうとする者の保証意思を事前に確認し、保証意思宣明公正証書を作成しなければ無効になる、という規定が設けられました。
 もとより、従前の金融庁や中小企業庁の指導等においても、経営者以外の第三者の個人保証を求めないこととされ、既に多くの金融機関においても実践していたところではありますが、この規定は、個人の第三者が保証人となる場合に、保証に基づくリスクを十分に自覚せず、安易に保証契約を締結してしまう事態を防止するべく、厳格な制度的担保が設けられたものと理解できます。

イ この保証意思宣明公正証書は、保証人になろうとする者本人が直接公証人に対して作成の嘱託をしなければならず代理人によっては嘱託をすることはできない点、さらに、同公正証書は、保証契約自体を内容とするものではなく、別途保証契約の作成が必要となるものの、保証契約締結日の1ヶ月以内に作成されている必要があるため、それ以前に同公正証書が作成されていても、やはり保証契約は無効になってしまう(なお、保証契約と同日に同公正証書が作成することの可否について議論がなされたものの、否定されてはいません。)点について、留意した上で対応する必要があります。

ウ また、保証意思宣明公正証書の作成が不要となる一定の例外についての対応は、今後、極めて重要となります。
 新法465条の9に列挙されている者、例えば、主たる債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役又はこれらに「準ずる者」(新法465条の9第1号)や、主たる債務者(法人を除く。)と「共同して事業を行う者」、または主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者(新法465条の9第3号)が保証人となる場合には、保証意思宣明公正証書の作成は不要となる、とされています。
 この点、1号の「理事、取締役、執行役」は、限定列挙であると理解され、同人らは、法律上、正式に法人の重要な業務執行を決定する機関又はその構成員の地位に有る者をいい、その役割を法律上又は事実上代行している者は含まれないとされています。その上で、「準ずる者」の解釈については、同条の保証人保護の趣旨から、いたずらに拡大解釈することは認められず、株式会社における監査役、執行役員、一般社団・財団法人の監事・評議員は「準ずる者」には含まれないと説明されています。
 また、2号につき、「共同して事業を行う者」といえるためには、いずれの当事者も、業務執行の権限や代表権限、業務執行に関する監督権限など事業の遂行に関与する権利を有するとともに、その事業につき利害関係を有することが認められる必要があると説明されています。
 しかし、これらの例外規定に該当するか否かの解釈の余地は、多分に残っており、具体的事案における該当性判断は悩ましいものである一方で、該当するか否かによって、保証契約の有効性という重大な結果を左右するため、最終的には、本制度の保証人保護の趣旨に立ち返って、原則として、保証意思宣明公正証書の作成は必要(例外要件に該当しない)、という運用が必要となります。

3 法定利率の引き下げ

 旧法では、制定以来、年5%のまま一度も法定利率は変更されてきませんでしたが、昨今の超低金利の情勢の下では、旧法下における法定利率が、市中金利を大きく上回っていたがために、金融機関にとっては、預金の払戻請求訴訟が提起された途端に、不当に高い遅延損害金を支払う必要があるなど、不合理というべき場面も多々見られました。
 そこで、新法404条では、法定利率を当初年3%に引き下げることとし、その上で、市中の金利動向に合わせて法定利率が変動する仕組みをあらかじめ法律で定め、それに従って機械的に法定利率が変動する仕組みを導入することを規定しました。
 より具体的には、3年を1期として、1期ごとに基準割合(各期の初日の属する年の6年前の1月から前々年の12月までの5年間の各月の短期プライムレートの平均利率)を比較して、結果的に、直近で変動があった期の基準割合と比較して、1%以上の変動が生じた場合には、法定利率が変更されることになりました。いわば、緩やかな変動制を採用したものと理解できます。
 ただ、具体的に適用される利率は、当該利息が生じた最初の時点における法定利率です。そのため、元本債権が存続している間に、法定利率が変更されても、当該債権に適用される法定利率を事後的に変更しないため、その意味では、実質的な固定制は維持されているともいえます。
 以上の点は、預金取引や貸出取引においては契約上の利率が適用されるため、新法の影響はないと予想されますが、金融機関等が債務不履行による遅延損害金を請求された場合(預金の払い戻しに応じない場面など)の利率については、新法による法定利率が適用される可能性があり、影響は小さくありません。

4 債権譲渡における預貯金の取り扱い

 新法では、旧法下では見られなかった「預貯金」という言葉が登場しました。すなわち、新法466条2項では、譲渡制限の意思表示によっても債権譲渡の効力は妨げられないという規定が設けられたにもかかわらず、新法466条の5第1項は、預貯金債権については、譲渡制限の意思表示について悪意又は重過失である譲受人に対し、譲渡制限の意思表示をそのまま対抗できることとしました。
 現在の預貯金規定上では、譲渡禁止特約が付されていることが一般的であり、少なくとも銀行取引につき経験のある者にとっては周知の事柄に属するとされている(最高裁昭和48年7月29日判決(民集27巻7号823号)ところ、法制審議会民法部会でも、金融機関においては普通預金に限らず定期預金を含めたすべての預貯金債権について、大量の預貯金債務を管理しなければならないという特殊性に鑑み、現行の規律を維持してほしいという金融業界の強い要望があり、これによって、明文規定が設けられるに至ったものです。以上のとおり、ただちに金融機関に対応を迫るものではありませんが、これもまた、与える影響は小さくないと思われます。

5 定型約款に関する規律の創設
(1)定型約款についての議論状況

 旧法下では、詳細な取引条件等を定めた約款を用いた定型的な取引が大量に行われていた一方で、約款に関する規定は設けられておらず、約款の規律は、判例や解釈に委ねられるという、不安定な状況が生じていました。
 そこで、法制審議会民法部会において、約款の規律を導入することが検討されたのですが、経済界の消極意見などもあり、議論が難航した結果、異例にも、民法の改正に関する要綱仮案では、ペンディングとされた上で引き続き審議が行われた経緯があります。
 このように、新法の中で、最も議論が紛糾した点と言っても差支えない改正点といえますが、最終的には、後述する定型約款の定義、効力要件、内容規制、内容表示、約款変更等の規律が立案されています。しかしながら、解釈の余地は未だに残るものであり、銀行取引における今後の対応についても、さらなる検討を要するものといえます。

(2)定型約款の定義

 新法548条の2第1項では、定型約款という新たな概念を設けた上で、定型約款を、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体(契約化目的性)」と定義し、そこでいう「定型取引」を「ある特定の者が不特定の者を相手方として行う取引であって(不特定多数性)、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(画一性・合理性)」と定義しています。
 銀行取引における預金規定については定型約款に該当するということで、それほど異論を見ないところです。一方で、銀行取引約定書が、かかる定型約款に該当するか否かについては、議論をひとくくりにはできず、肯定する見解、否定する見解の両論ありうるところであり、未だ統一的な見解をみないところです。すなわち、法制審議会等の議論によれば、いわゆる法人向けの雛形タイプの場合でも、相手ごとに異なった契約を締結する目的で用いられる取引類型や、交渉を前提とするような取引類型については、画一性要件を欠き、定型約款に非該当ということになるし、また、約款タイプの場合については、画一性は問題ないとしても、画一性の理由が交渉力格差による場合には、相手方にとっては合理的であるとはいえないので、やはり定型約款に非該当ということになる、という意見が見られました。このような具合で、個々別々に検討されることにならざるを得ないものですが(なお、契約書の種別ごとに定型約款該当性を詳細に検討した論考として、浅田隆氏による金融法務事情2050号28頁以下、2055号43頁以下がある。)、仮に、銀行取引約定書が定型約款に該当しないとしても、現行の締結方式が双方署名であることが一般的である以上、積極的に定型約款の規律のもとで合意の法的有効性を確保しなければならないというわけではなく、その変更可能性は兎も角として、効果としては大きな差は無いと思われます。
 なお、定型約款に該当しない場合は、従前の約款に関する裁判例等の規律に服して、約款の変更等がなされることになります(例えば、暴力団排除条項の遡及適用の有効性が争われた近時の裁判例として、福岡地判平成28年3月4日、東京地判平成28年5月18日等が挙げられます。)。

(3)定型約款の組み入れ要件

 法制審議会民法部会では、定型約款の組み入れ要件について、既に述べた定義規定と相互に関連しながら議論され、提案が幾度となく変遷しましたが、最終的には、新法548条の2各号のとおり、「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」(同1号)、「定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」(同2号)には、定型約款の個別の条項についても合意したものとみなす、という規定に落ち着いています。
 たとえば、同条1号については、合意の具体例として、「銀行所定の預金規定を承認の上、申し込みます」といった記載のある預金口座開設申込書を顧客から徴求するという実務対応が考えられるところであり、また、同条2号については、1号の次善の策として採用されることが予想されます。

(4)定型約款の内容規制

 新法548条の2第2項は、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす」と規定しています。
 本項は、組み入れ効果の例外として、内容又は手続的に、信義則に反した条項や不意打ちがあった場合の不合意を擬制するもので、一例として、法外な金額の違約金条項を設けるなどの一方的な内容を規制することなどが考えられます。もっとも、抽象度の高い条項に落ち着いているため、既に、顧客保護の観点から、相当程度に約款内容の検討及び説明手続をとっている銀行実務への影響はそれほど影響がないとみて差し支えないと考えられます。

(5)定型約款の開示

 新法548条の3は、「定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない」と規定しています。銀行取引においては、既に取引開始にあたって、取引約款を交付するか、ウェブサイトで開示しているため、その意味では、現状をおおまか追認したものともいえますが、念のため、あらかじめ本条に基づく開示請求があった場合の適時開示体制や書類等を準備しておくことも考えられます。

(6)定型約款の変更

 契約の一般原則からすれば、既に成立した契約内容を相手方の同意なく一方的に変更することはできません。しかし、他方で、事業者側にとっては、法令の改正など事業を取り巻く環境によって約款変更の必要が高く、また、多くの場合、個別の同意を得ることは事実上困難です。さらに、従前、判例で、一方当事者による変更後の約款が相手方に適用されることを認めたものもあります(最判平成13年3月27日民集55巻2号434頁等)が、その射程範囲は明らかでなく、約款の変更について十分な議論の蓄積がない状況でした。
 そこで、新法548条の4は、定型約款の変更の規律を設けるに至りました。すなわち、【Ⅰ】実体要件として、ア.定型約款準備者は、定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合し、又は、イ.契約をした目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更条項の有無・内容など、その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、【Ⅱ】手続要件として、ア.効力発生時期を定め、イ.約款変更する旨・変更後の約款内容・当該発生時期をインターネットの利用など適切な方法で周知すれば、変更後の定型約款の条項について個別に相手方と合意することなく、契約の内容を変更することができる、と規定しています。なお、新法施行前に利用されている定型取引に係る定型約款の変更にも、新法の定型約款の変更の規律が適用されるものの(新法附則33条1項)、一方で、定型取引の当事者の一方により反対の意思の表示が書面でされた場合(電磁的記録による場合を含む。)には、定型約款に関する規律は適用されません(新法附則33条2項)。
 銀行実務においても、過去、預金約款について、逆相殺条項、不正口座強制解約、暴力団排除条項等の追加変更が実施されてきており、本条項は、そのような過去の運用と大きく異ならず、影響は限定的でありますが、約款変更に関する規律を明文に落とし込んだ意義は、法的安定性の確保という意味で、極めて大きいといえます。また、今後は、より一層、本条に基づく定型約款の変更を確実に行うべく、たとえば、契約目的を明確にする、変更不同意者に対するフォローを明確にする(解除権付与等)ことが想定されるところです。
 このような定型約款の変更に関する金融機関の実務対応が、他の分野についても、今後の議論をリードしていくものと考えられ、議論の集積が期待されます。

以 上

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